お誕生日クエスト 一の巻き
……別の日。
「プレゼント、ですか?」
昼休みの教室にて、紗佐が疑問の声を上げた。
「敬語」
「す、すいません……」
一片に指摘され、縮こまる紗佐。別にいいだろうに。ごちゃごちゃ言うなよ。
「飾闇代の誕生日が八月らしくてな。まだ早いとは思うが、今のうちから考えておこうかと思ったんダ」
「そう……なんだ」
敬語にならないよう、気をつけて返答。
「でも、何でまた?」
「もう知ってるとは思うが、俺と飾闇代はあまり仲が良くない」
闇代と一片が狼の家に下宿している事実は(主に氷室によって)クラス中に知れ渡っている。しかし、一片と闇代が口を利くところを見た者がいない。そのため、二人が不仲(それも、闇代が狼にべったりで嫉妬しているためなどと言う理由で)なのではと噂されている。
「とはいえ、この現状を維持し続けるのはよろしくないと思うわけダ」
「なるほど、それで誕生日プレゼントを」
まあ、物でどうにかなるとは思えないが、いい案には変わりない。
「そう思ったんダガナ……。生まれてこの方、人に物を贈ったことがない」
「だから、私に相談を?」
「まだ、気軽に話せる人間も多くなくてな」
それは単に人と係わろうとしないヒッキー型だからだろう。
「……」
気のせいだろうか……今、物凄く睨まれた気がするんだが。
「気軽に……」
一方の紗佐は、一片の言葉を反芻している。
「分かりました、頑張ります!」
そして突然、両手でガッツポーズをする紗佐。何だか無駄に気合が入ってるな。
「敬語」
「あぅ……」
出鼻を挫くな。
「そ、それはそうと、闇代ちゃんって何か好きなものとかあるのかな?」
「好きなもの?」
「プレゼントはその人が好きなものだとより効果的だから」
「飾闇代が好きなものと言えば……向坂狼ダナ」
確かにそうだ。
「ということは、あいつへのプレゼントは向坂狼にすればいいのか?」
「いや、それは色々と問題ある気が……」
「そうか」
大体どうやって渡す気だ。ロープで縛り付けて簀巻きの状態でプレゼントか。
「しかし、向坂狼の私物でもいいみたいダカラナ……。あいつの衣類でも何着かくすねるか」
「そ、それもだめじゃないかと……」
「むう」
一旦、狼から離れろ。
「しかしそうなると、何を贈ればいいのやら」
「だったら、向坂君に相談したらどう?」
「向坂狼か?」
「向坂君が闇代ちゃんと一番一緒にいるし、色々知ってるんじゃないかな」
つまり、紗佐に相談する時点で間違いだということか。
「確かに、飾闇代の誕生日を突き止めたのも奴ダ」
「俺がどうかしたか?」
そこへ偶然、狼が通りかかった。
「こ、向坂君……!」
「丁度よかった。お前に聞きたいことがある」
「何だよ?」
「飾闇代はお前以外に何が好きなんだ?」
「は?」
口を開いたまま硬直する狼。紗佐が事情を説明すると、狼も一緒に考え出した。
「まあ、あいつは意外と何貰っても喜びそうなんだけどな」
「そうなのか?」
「けど、子ども扱いされたり、体格のことを言われたりすると怒るから、子供っぽいものとかは止めたほうがいいな」
「子供っぽいのは駄目、と……」
丁寧にメモを取る一片。案外几帳面のようだ。
「ああそれと、贈るならアクセサリーとかは避けたほうがいいかもな」
「何故ダ?」
「あいつの親父がそういうの作ってるらしくて、安物だとすぐにばれるからな。かと言って高いの買っても、あいつの好みに合わなきゃ意味ないしな」
「なるほど。アクセサリーも駄目、と……」
メモがどんどん増えていく。
「候補に上げるなら菓子だろうな。それもとびきりうまいの。もしくは芳香剤とか。そんなにきつくない奴な。ラベンダーとかのアロマオイルだと安眠効果が期待できてなおいいかもだ」
「ふむふむ」
参考になる意見はあっただろうか。
「ま、後は自分で考えなよ。まだ二月はあるしな」
そう言って、狼はどこかへ行ってしまった。
「それで、これをどうしたものか……」
自分で纏めたメモ書きを見て呟く一片。狼が色々な意見を次々と言ってったので、乱雑な状態になっている。
「まだ時間もあるし、じっくり選べばいいかと……」
「とはいえ、目星くらいはつけておきたい」
物凄く意欲的だ。アグレッシッブ過ぎる。
「手を抜いては、意味が無いからな」
「でも、焦らずゆっくり検討したほうが、いいものが見つかると思うよ」
「……それもそうか」
「決まるまで、私も手伝うから、ね?」
噛んで含めるように言い聞かせる紗佐。相手との信頼度で、ここまで対応が変わるのだろうか。
「では、厄介になるとしようか」
「はいっ」
一片の、プレゼント選びクエストが、今ここでスタートした。