アクセサリーの魔術的な意味ついて調べようとしたけど、面倒なので、今回はパス
「じゃあ、買い物も済んだことだし、カラオケへごー!」
店を出るなり、ほのじが高らかと拳を上げる。そんなに歌いたいのだろうか。
「まあ、俺は構わんが……持ち合わせがあまりないから、程々にな」
「わーい」
「闇代はどうする?」
「狼君が行くならわたしも」
というわけで、これまた商店街にあるカラオケボックスへと向かうこととなった。
「ちょっとそこの若いの。少し寄ってってよ」
と思った矢先、道の端に座り込んでいる男に声を掛けられた。ニット帽を被った、三十代後半くらいの若作りしたおっさんだ。
「おっと狼君か。可愛い子二人も連れてどうしたんだ?」
ここでも狼の顔見知りがいたか。どんだけ顔広いんだ?
「あんたこそ、またこんなとこで露店やってんのか?」
「いや~趣味だからね」
趣味で露店開いているのかこの人は。よっぽど暇なのか?
「それよりそこの彼女達、ちょっと見てってよ」
露店には手製のアクセサリーが並んでいた。銀製のものが多いが、少々値が張る。
「あっ、これ」
それを見て闇代が、そこにあった一つを手に取った。
「お嬢ちゃん、お目が高い。そいつは俺の自信作さ」
その自信作とやらは、銀製のペンダントだった。鎖は市販のもののようだが、ペンダントトップは翼の形になっていて、そこに緑の宝石が三個埋め込まれている。
「この石、ペリドット?」
「その通り。それにして、その年で石の名前が分かるなんて、何者なんだいお嬢ちゃん?」
「パパもこういうの作る仕事してて、それで石とか見分けられるの」
闇代は除霊師の家系であるが、今の時代、除霊師だけで食べていけるはずもないから、そうやって生計を立てていたのだろう。
「でもそれなら、そういうのいくつも持ってんじゃないのか?」
「ううん。若いうちから装飾品を身につけるのは良くないって言われてて、未だにお化粧すらしたことないんだよ」
「いや、スッピンなのは知ってたけど」
結構厳しい親のようだ。だからこそ、親元を離れてから羽目を外しすぎてるのかもしれない。
「ペリドットって、わたしの誕生石なんだよ」
「ペリドットが誕生石ってことは、八月生まれか?」
「うん」
向坂狼。誕生石が分かる男。
「俺は一応五月生まれだから、ちゃんとお前より年上だな」
「その言い方は気に障るけど、確かにそうだね」
「で、いくらなんだそれ?」
「そりゃ自信作だから、二千円は頂くよ」
アクセサリーとしては安いが、学生にとっては二千円でも十分高い。
「う~ん……それだと無理かな」
闇代は残念そうにペンダントを戻した。さっき服を買ったので、あまりお金の余裕がないのだろうか。それならカラオケも我慢すればいいのに。
「なら、俺が買ってやるよ」
「え?」
何か突然、狼が気前のいいこと言い出した。
「なるほど、彼女にプレゼントってわけか。まあ狼君になら、お優さんにも日頃お世話になってるし、特別価格の三割引にしとくよ」
「なら千四百円だな。ほら」
「へへっ毎度あり」
狼は代金を男に渡すと、ペンダントを受け取って闇代の首に掛けてやる。
「ほら、折角買ってやったんだから大切にしろよ」
「……ありがと」
頬を赤く染める闇代。それを見て喜んでいる様子の狼。彼も意外と、闇代にデレてるのかもしれない。
「それと、これからは少しは大人しくしろ」
「うっ……」
真の目的はそっちか!? このペンダントは首輪なのか!?
「ずるーい! 狼君、ほのじにも買って!」
「構わんが、その場合財布がすっからかんになるから、カラオケは無しな」
「えー!?」
「嫌ならいいが」
「うぅ……お願いします」
やはりほのじも、カラオケより、狼からのプレゼントが欲しいみたいだ。
「んじゃ、こっちのペンダントくれ」
狼が選んだのは、闇代のものと同じデザインのペンダントだ。しかし作りはやや雑で、石は深い青のものになっている。
「ほいほい。こっちは元から安いから値引きしないけど、それでもいいかい?」
「別にいいさ。最初から値引きを当てに買い物なんかしない」
「じゃあ千円頂くよ」
代金を払い、ほのじの首に掛けてやる狼。
「これでいいだろ?」
「うん、ありがとう狼君」
「お前もこれからは大人しくな」
「うっ……」
こっちにも、釘を刺すのを忘れない。
「それじゃあさっさと帰るぞ。もう物買う金もないしな」
「「はーい」」
家路に着く三人を、露店の男はその姿が見えなくなるまで眺めていた。
「……ったく、なんであんなに、あいつと似てるのやら」
その呟きが、彼らに聞こえることは、勿論なかった。