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クインテット。ナイツ 日常編  作者: 恵/.
N―好かれる。ナイツ
6/36

普通はこんな簡単に誤魔化せません


 ……放課後。


「さてと、帰るか」

 狼は鞄を手に、教室を出ようとする。

「待って狼君、一緒に帰ろ」

 そんな彼を、闇代が呼び止める。

「嫌って言ってもついて来るくせに」

 好きにしろと言わんばかりに溜息を吐く狼。闇代は彼の右隣に来ると、並んで歩き出した。

「狼くーん!」

 と思ったら、後ろからの声がして、二人は足を止めた。ほのじが狼を追いかけてきたのだ。

「一緒に帰ろ」

 そして返事も待たず、彼の左隣に並ぶ。

「まあ、断ってもついてくるんだろうな」

 狼はまたも溜息を吐き、半ば諦めた様子で廊下を歩き出した。

「今日はこれからどうする?」

 闇代に聞かれ、狼は顎に手を当て考える。本人としては、さっさと帰宅したいのだろうが、そう答えるつもりはないのだろうか。

「とりあえず、お前らが大人しくしてくれればどうでもいい」

 どうやら彼は、二人が暴走しないよう、適当に遊ばせておくという方針を取ることにしたらしい。まあ、積極的に二人をリードするようなことはしないため、自分の予定であるはずなのに他人任せとなってしまっている。

「じゃあ、一緒にお買い物しよっ」

「えー? カラオケ行って歌いたいのにぃ~」

「じゃあ一人で歌ってくれば? その間、わたしは狼君とお買い物するから」

「うぅ~……。まあ、そこまで言うならお買い物でもいいけど」

 というわけで、放課後はお買い物変則デート(?)で決まりのようだ。


  ◇


「ほら狼君、ここだよここ」

 闇代に引っ張られてやって来たのは、商店街にある古い洋服店だった。流行の服やブランド品は置いていないが、普段着には丁度いい服が安価で売られており、狼もここの服に世話になっている。

「前から気になってんだけど、家から持ってきた服が春物ばっかりだったから、ここで夏物揃えようかなって」

「まあ、もう六月も半分過ぎてるしな」

 これから本格的に夏到来なのだから、いつまでも春物では辛いだろう。

「さ、早く入ろ」

 闇代に促され、狼は美少女二人(面倒なのでこれでよしとする)を引き連れて入店した。

「いらっしゃい。おや、狼君か」

 店の奥から出てきた店主(禿の中年男性)は、当然というか狼と顔見知りの様子。

「どうしたんだい今日は。可愛い子を二人も連れちゃって」

「こいつが夏物探してるってさ」

 狼は隣にいる闇代を指差して言った。

「なるほど。もうすぐ夏だからね」

「適当な安物でいいから、サイズが合いそうなの出してやってくれ」

「あいよ」

 店主が奥に引っ込む。服の在庫を取りに行ったのだろう。

「狼君、もしかしてお店の人と知り合いなの?」

「うちの店によく来るんだ。俺はたまに店の手伝いするから、常連客とは顔見知りな訳さ。その縁でここにも何度か来てるから、尚更な」

「ふ~ん」

 因みにほのじはというと、辺りに陳列されている服を眺めたり物色したりしていた。

「あ、この服いいかもっ♪ でもこれも可愛いし、こっちも捨て難い……」

 そして何やら吟味している様子。

「あったよ、よさそうな服」

 店主が段ボール箱を抱えて戻ってきた。

「また何か古そうなの出してきたな」

「そりゃ最近じゃあ、めっきり売れなくなったからね」

 ダンボールを開封すると、中にはビニールに包まれた洋服が詰め込まれていた。

「さ、お嬢ちゃん、好きなのを選びな。特別に安くしとくよ」

 闇代は、ダンボールから次々と服を取り出しては見ている。

「……もしかして、これって子供服?」

「もしかしなくても子供服だね」

 闇代の額に青筋が浮かんだ。まずい、キレる寸前だ。

「お前の体格だと普通の婦人服は着れないんだから、子供服が丁度いいっての」

 駄目押しの狼の台詞。……本気で暴れますよ、この人。

「―――それに、その服なら絶対お前に似合うって」

「……ほんとに?」

 闇代が、上目遣いに見上げてくる。けど、青筋はそのままで、とても怖い。

「ああ。その服着たお前と一緒にその辺歩いたらとても楽しいだろうな」

 あ、こいつ闇代がキレそうなのに途中で気づいて、褒めまくって気を静めようとしているな。だが、子ども扱いされた闇代がそんな簡単に静まるはずは―――

「……じゃあ、これにする」

 いいのか!? それでいいのか!? 何か満更でもないって顔してるし! お前にはプライドというものはないのか?

 などという突っ込みは無視され(闇代には聞こえているはず)、闇代は会計を済ませてしまった。その額、十着で三千円。……いくら余ってた在庫とはいえ、一着三百円は安くないか? 子供服ってもっと高いイメージがあるのだが。それとも、これも町の洋服屋さんクオリティなのか?

「わりぃな、こんなに安くしてもらって」

「いや、売れ残ってたけど処分するのが勿体無くて倉庫に入れたやつだから。寧ろ、お金を取ってちゃったことのほうが済まないと思うよ」

「それこそ気にしなくていいと思うぜ」

 狼が店主と話している間に、ほのじが自分の買い物の会計を済ませていた。結局、どの服を買うのか決まったのだろうか。

「んじゃあ、今日はこれで失礼するわ」

「それじゃあまた。ああそれから、お優さんによろしくね」

「へいへい」

 買い物を済ませた三人は、ぞろぞろと店を出た。

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