お食事時の悲劇
……昼休み。
「狼きゅーん、お昼ご飯食べよー」
昼休みになった途端、闇代が自分の弁当(優のお手製)を持って狼の元へと寄って来た。
「あーずるいぃ~! 私も一緒にご飯食べるのぉ~!」
ほのじも教室にやって来た。それくらいの予想はしていたが、まさか重箱を手に来るとは思わなかった。
「何なんだよその重箱は……?」
それを見た狼も呆れている。しかしほのじはそれを聞いてふふんと自信あり気に笑った。
「狼君、成長期ですぐにお腹空いちゃうだろうから、作ってきたの」
「んなことしなくていいんだが……」
「遠慮しないの」
ほのじが重箱の蓋を開けると、そこには色彩豊かな料理詰められていた。サラダや金平ゴボウなどの野菜料理に、ハンバーグと焼き魚、肉じゃがのような定番おかず、更に炊き込みご飯も詰まっていて、しかも重箱の段や仕切りで区切っているせいか、ごちゃごちゃ感はない。寧ろそれぞれの色彩に合わせたレイアウトで、見る者の食欲を掻き立てる。これをほのじが作ったのだろうか?
「さあ、たんと召し上がれ」
「……まあ、用意してくれたんなら、残すのも悪いしな」
狼は渋々といった様子で、料理に箸をつけた。
「どう? おいしい?」
「……六十二点」
「へっ?」
彼の口から出てきたのは、味の感想ではなく点数であった。
「なんでそんな中途半端なの……?」
「う、狼が六十二点って、言った……!?」
その様子を見ていた上風が、何故か戦慄していた。
「嘘よ、狼が料理に六十点以上をつけるなんて、お優さんの手料理(百点満点)以外にないはずなのに……!」
なんだその設定は。いつの間にこの話はグルメ小説になったんだ? 料理に点数をつけるグルメ小説があるのかは知らんが。
「何言ってんだお前? この点数は感想考えるのが面倒になったときに、適当に言っているだけだぞ。因みに、真面目に点数化すれば八十、九十にはなるのくらい幾らでもある」
「ガ、ガーン……!」
項垂れる上風。ってか、テンションがおかしくないか? 何が起こっているんだ一体?
「えと、上風ちゃんどうしたの?」
「たまに発症する『あたしだってたまにはアホになりたいんだからね症候群mk―2』だ」
「何で『mk―2』なの?」
「『mk―1』があるからじゃないか? 俺も本人からそう聞いただけで、詳しいことは知らん」
どうして今回、こんな謎設定ばっかりなんだ?
「それで、結局どうだったの?」
「どうって何が?」
「料理の味」
確かに、点数で誤魔化してはいたが、感想はまったく言っていなかった。
「そんなの―――俺のことを想って作ってくれたんだから、うまいに決まってるだろ」
「狼君……嬉しい」
目をうるうるさせ、頬を上気させるほのじ。だが、
「と言いたいところだが、不味い」
「……え?」
ほのじの表情が固まる。フリーズでもしたかのように、完全に凍りつく。
「俺のできる最大限の脳内補正をもってしても、これだけはさすがに舌を誤魔化せない。まず、全部の料理から漢方薬の匂いがする」
「そ、それは、狼君に精のつくものを食べてもらおうと―――」
「だからって、某製薬メーカーの主力商品である、液が透明なことだけが売りの漢方薬品を料理に振りかける奴があるか? おまけにほどよく水分が飛んでるせいか、全体的にべとべとしてる。だから食感も最悪。栄養面に気が行き過ぎて、味が適当になってるいい例だな」
「そ、そんなぁ……」
「だったらお前、これ、ちゃんと味見したか?」
「……あっ!」
してないようだ。
「自分で食ってみろ。それで思う存分苦しむといい。と言うわけで俺はちょっと電話を掛けてくる」
狼は腹を抱え、教室を出て行った。そして残されたほのじと闇代はというと。
「……これ、どうするの?」
「……えっと、食べるしかない、かな?」
そして彼女達は、『良薬は口に苦し』の意味を、身をもって知ることとなる。