Q.男は辛いの? A.こいつは特にね。
……翌日。
「あら、狼じゃない。おはよう」
「ああ」
朝、学校に着いた狼は上風と言葉を交わす。
「どう? 闇代ちゃんとの生活も慣れた?」
その問いをする上風の表情が、とても可笑しそうに見えるのが気になる。どの辺が可笑しそうなのかは、読者の想像に任せる。
「まあ、慣れてきたはずだったんだが……」
すると彼の後ろから、ぎゃーぎゃーと騒がしい声が聞こえてきた。
「昨日のあれで、懸案事項が一個増えた」
そして教室の戸が開き、二人の美少女(と呼んでいいのだろうか?)が入ってくる。
「狼君! 何で先に言っちゃうの!?」
「置いてくなんて、酷い!」
その二人とは、言うまでもなく闇代とほのじなのだが。
「うるせえ。お前らが勝手に喧嘩してるからだろうが。それとほのじは教室が違う」
「そうだよ。さっさと出てって」
「えーっ!? 少しでも長くダーリンの傍にいたいよぉ~!」
「ダーリン言うな」
モテまくりだな、この幸せ者。その癖、当の本人はあまり嬉しそうでない。
「どうにかしてくれ」
「どうにもならない」
懇願するように上風を見ていた狼だが、その望みはあっさりと砕かれる。
「ていうか、この二人が嫌なら彼女の一人でも作ればいいじゃない」
「んな簡単にできるもんか」
それもそうだ。そう簡単に彼女が出来たら、この世にモテない男子なんていないだろう。
「大体、こいつらから逃れるために付き合うなんて、そんな馬鹿な真似できるわけがない」
「それほどの誠実さがあるなら、二人の気持ちに真摯に向き合った上でちゃんと返事をすればいいでしょ? いつまでも逃げてるからここまで拗れるんじゃない」
まったくその通りだ。この二人の好意に、狼が真剣に向き合うところなど見たこともない。折角こんなにモテてるんだから、せめてしっかりと報いてやれよこの野郎。
「それを言われると反論できないな……」
「でしょ? だから後は自分で何とかしなさい」
幼馴染から見放され、三角関係を一人で歩むこととなった狼の運命はいかに?
……休み時間。
「狼きゅーん!」
「ダーリン!」
チャイムが鳴るなり、闇代とほのじが狼に飛びついてきた。ほのじは別のクラスだと言うのに、一体どうやってこれほどまでに早く来ているのだろうか。
「……暑い」
二人に纏わりつかれて、体感温度が三度ほど上昇中の狼。
「そうだよ。ほのじの熱い想いの炎でダーリンを焼き殺しちゃうから」
「いや、殺すなよ……」
「安心して。わたしが狼君を守るから」
「お前はお前で十分危険だからな」
狼が抵抗していないのは、諦めからか、それとも別の理由なのか。二人にされるままとなっている。
「はぁ~幸せだよぉ~」
「ほんとだねぇ~」
「よかったな、そりゃ」
最早扱いが愛玩動物になってるな。頬擦りとか、撫で撫でとかされてるし。
「うわっ、向坂の奴、本格的にハーレムを楽しみだしたぞ」
「ほんとだ。あいつだけは絶対無いと思ってたのに……」
何やら教室の隅でヒソヒソ話が展開されているが、狼の一睨みですぐに沈黙。とはいえ、さすがにこのままというわけにもいかず、二人を引き剥がしに掛かる。
「ほらほら、もうすぐ次の授業だぞ」
「や~ん、まだ一緒にいるのぉ~」
「もっともふもふさせてぇ~」
「いいからとっとと席に着け! ほのじは自分の教室に帰れ!」
「きゃっ!」
「ひゃん!」
一喝され、強制的に離される闇代とほのじ。二人ともぎゃあぎゃあ騒いでいたが、チャイムが鳴ると渋々自分の席に戻っていった。
(ったく、手間のかかる連中だな……)
ただまあ狼も、あの二人の扱い方が分かってきたようではあるが。