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クインテット。ナイツ 日常編  作者: 恵/.
T―締めくくる。ナイツ
33/36

それぞれのクリスマス


 ……時間が流れて、冬。肌寒い暮れの時期である。年の瀬を、彼らはどのように過ごすのだろうか。


「じんぐーべぅ、じんぐーべぅ、すっずっがなるぅー」

 すっかりクリスマスムードの町を歌いながらスキップする、制服姿の闇代。学校帰りだろうか?

「そういや、もうクリスマスか」

 彼女の隣を、同じく制服姿の狼が歩いていた。みんなで一緒に下校。彼らにとってはいつもの光景だ。

「性なる夜と書いて性夜のことだね~」

 狼を挟んだ闇代の反対側には、下ネタを吐き出している美也が、狼の腕に抱きついていた。無論、歳の割りに豊満な胸を押し付けることも忘れない。

「……ふむ」

 そんな彼らの少し後ろで、一片が、興味深そうに町を眺めていた。珍しいのだろうか?

「で、クリスマスの予定はあるのかな、狼君は」

「店の手伝い」

 ふと沸いて出た美也の疑問に、狼はそう答える。店というのは、彼の家である居酒屋『虹化粧』のことだ。折角のクリスマスも、家業の手伝いに費やされるのか……。

「因みに、わたしと一片君もだよ~」

 狼の言葉に、闇代が続ける。二人は狼の家に居候しているので、店の手伝いは当然なのだろう。実際、この前も働いてたし。高校生のバイト先として適当なのかは知らんが。

「それじゃあ、私だけ除け者なの?」

「そっちだって、何か予定があるんじゃないのか?」

 美也の漏らす不平に、狼はそう返す。すると美也は、そうだった、と呟いた。

「パパとママが、今年は家族一緒にクリスマスを過ごそうって言ってるの」

「だったらそっちへ行けよ。家族水入らずだろ?」

 勿論、折角疎遠だった家族とクリスマスを迎えられるのだから、嬉しいに決まっている。けれども、彼女だって一応は恋する乙女だ。好きな人と一緒に聖夜を過ごしたいという想いもある。恋敵が意中の相手と一緒なのだとしたら、なおのこと。

「うぅ~……狼君もうちに来ればいいのにぃ~」

「いや、それは無理だろ」

 美也の願望に、狼が突っ込む。彼氏でもない他所の男を同席させるのは、ちょっと無茶ではないだろうか。例え彼氏だったとしても、色々拗れそうだが。

「店で出すクリスマスケーキが余ったら持ってってやるから、我慢しろ」

「……分かった。その代わり、ケーキをあ~んしてよね、絶対」

「それは約束できん」

 渋々承諾しながらも、無謀な注文をしてくる先輩を、狼は呆れた様子で突っぱねた。



  ◇



 ……そして、クリスマス当日。


「メリ~、クリスマ~ス」

 居酒屋『虹化粧』に、陽気な声が響き渡る。今日の『虹化粧』はクリスマスモードで、『いらっしゃいませ』が『メリークリスマス』になっているのだ。それだけではなく、店内は飾り付けられ、店員は全員サンタ服。初めてこの店に入った客は、ここがどこなのか分からなくなるかもしれない。

「特別メニューのフライドチキン、お待たせですっ!」

 こんがりきつね色のチキンを運んできたのは、ミニスカサンタ衣装の闇代。何故冬にミニスカートなのだとか、そもそもなんでサンタコスをする必要があるのかとか、その辺の苦情は受け付けません。闇代も元気に愛想を振り撒いているし、頑張ってるんだから大目に見よう。それに可愛いし。眼福眼福。

「肉じゃがお待ち」

 通常メニューを運ぶ狼も、しっかりサンタ服を着込んでいる。無論ミニスカートではないが、代わりに白い口髭をつけていた。何気にノリノリじゃないか?

「お二人さん、ご夫婦ですか? それならサービスしないとですね」

 老夫婦に刺身をサービスしている優は、サンタ服を模したエプロン姿で調理をしていた。クリスマスだからなのか、やたらと気前がいい。因みに、一片はいつものように皿洗いに徹していた。勿論サンタ服で。トナカイのコスプレでも良かった気がする。

「お客さん一杯だね~」

「だな」

 ウェイターの仕事に追われる闇代と狼だが、多少の雑談を挟むくらいには余裕があるようだ。

「毎年こんなに忙しいと、大変だね」

「今年はお前らがいるからまだいいほうなんだがな。去年は二人だけで、しかも客が大勢来たからてんてこ舞いだったぜ」

「そういえば、そうだったね」

 雑談しながらでも、二人は順調に仕事をこなしていく。そうして、徐々に時間は過ぎていき―――



  ◇



「それでは、本日のメインイベント、『聖夜にみんなでケーキ』の時間でーすっ!」

 優の掛け声と共に、店中の客にケーキが配られる。ショートケーキ、チーズケーキ、ブッシュドノエルなど、様々な種類のケーキが切り分けられ、皿に乗せられ、客の手に渡っていった。

「ケーキかぁ……」

「客の前で食うなよ。一応店員なんだから」

「分かってるよぉ~。ちょっと、実家のことを思い出してただけ」

 ケーキを見て溜息を吐く闇代に、狼が釘を刺す。そんな彼に抗議するように、闇代はそんなことを言った。

「実家でのクリスマスを、か?」

「うん。パパは今頃、どうしてるのかなって」

 闇代の父親は、現在一人暮らしとなっている。折角のクリスマスも、家族がいないと寂しいだろう。

「まあ、家族のためにケーキを自作するような親だからな。そうでなくても親馬鹿だし。今頃は泣いてるんじゃないか?」

「ふふっ、そうかもね」

 二人っきりとはいかないものの、大勢の人たちと過ごすクリスマスは、二人にとってもいい思い出になったようだ。



 ……その頃、美也は。


「メリ~クリスマス~♪ いぇ~い♪」

「「「メリークリスマス」」」

 美也の実家にて。クラッカーの音が、部屋中に響き渡った。こっちはこっちで、クリスマスを楽しんでいるらしい。

「美也と一緒に、またクリスマスを過ごせる日が来て、嬉しいな」

「そうね。この日をどれだけ待ちわびたか」

 そう漏らすのは、美也の両親。美也は両親と疎遠になっていたのだが、この度、聖夜を共に過ごすことが出来るのだ。

「……本当に、嬉しい」

 けれども、一番嬉しいのは美也だろう。涙こそ流していないが、感極まったのか、頬を赤く染めて俯いている。

「確かに喜ばしいけど、年頃の女の子なんだから、彼氏の一人でも連れて来てくれればなお良かったんだけどね」

「なっ……!? 美也に彼氏だと……!?」

 伯父の言葉に、父親が過敏に反応した。やはり、父親としては、娘の男関係が気になるのだろうか。

「ちょ、伯父さん……! 彼氏だなんてまだそんな……」

「彼氏はいなくても、気になってる人はいるんでしょ?」

「へっ? あ、う、えっと……」

 伯父の問いかけに、口篭る美也。さすが、伊達にあれなゲームを作っているわけではないようだ。

「ゆ、許さんからなっ……! 彼氏なんてまだ早いっ……!」

「あらあら。今度紹介してね」

「……伯父さんの馬鹿」

 こうして、それぞれの聖夜が更けていく。

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