それぞれのクリスマス
……時間が流れて、冬。肌寒い暮れの時期である。年の瀬を、彼らはどのように過ごすのだろうか。
「じんぐーべぅ、じんぐーべぅ、すっずっがなるぅー」
すっかりクリスマスムードの町を歌いながらスキップする、制服姿の闇代。学校帰りだろうか?
「そういや、もうクリスマスか」
彼女の隣を、同じく制服姿の狼が歩いていた。みんなで一緒に下校。彼らにとってはいつもの光景だ。
「性なる夜と書いて性夜のことだね~」
狼を挟んだ闇代の反対側には、下ネタを吐き出している美也が、狼の腕に抱きついていた。無論、歳の割りに豊満な胸を押し付けることも忘れない。
「……ふむ」
そんな彼らの少し後ろで、一片が、興味深そうに町を眺めていた。珍しいのだろうか?
「で、クリスマスの予定はあるのかな、狼君は」
「店の手伝い」
ふと沸いて出た美也の疑問に、狼はそう答える。店というのは、彼の家である居酒屋『虹化粧』のことだ。折角のクリスマスも、家業の手伝いに費やされるのか……。
「因みに、わたしと一片君もだよ~」
狼の言葉に、闇代が続ける。二人は狼の家に居候しているので、店の手伝いは当然なのだろう。実際、この前も働いてたし。高校生のバイト先として適当なのかは知らんが。
「それじゃあ、私だけ除け者なの?」
「そっちだって、何か予定があるんじゃないのか?」
美也の漏らす不平に、狼はそう返す。すると美也は、そうだった、と呟いた。
「パパとママが、今年は家族一緒にクリスマスを過ごそうって言ってるの」
「だったらそっちへ行けよ。家族水入らずだろ?」
勿論、折角疎遠だった家族とクリスマスを迎えられるのだから、嬉しいに決まっている。けれども、彼女だって一応は恋する乙女だ。好きな人と一緒に聖夜を過ごしたいという想いもある。恋敵が意中の相手と一緒なのだとしたら、なおのこと。
「うぅ~……狼君もうちに来ればいいのにぃ~」
「いや、それは無理だろ」
美也の願望に、狼が突っ込む。彼氏でもない他所の男を同席させるのは、ちょっと無茶ではないだろうか。例え彼氏だったとしても、色々拗れそうだが。
「店で出すクリスマスケーキが余ったら持ってってやるから、我慢しろ」
「……分かった。その代わり、ケーキをあ~んしてよね、絶対」
「それは約束できん」
渋々承諾しながらも、無謀な注文をしてくる先輩を、狼は呆れた様子で突っぱねた。
◇
……そして、クリスマス当日。
「メリ~、クリスマ~ス」
居酒屋『虹化粧』に、陽気な声が響き渡る。今日の『虹化粧』はクリスマスモードで、『いらっしゃいませ』が『メリークリスマス』になっているのだ。それだけではなく、店内は飾り付けられ、店員は全員サンタ服。初めてこの店に入った客は、ここがどこなのか分からなくなるかもしれない。
「特別メニューのフライドチキン、お待たせですっ!」
こんがりきつね色のチキンを運んできたのは、ミニスカサンタ衣装の闇代。何故冬にミニスカートなのだとか、そもそもなんでサンタコスをする必要があるのかとか、その辺の苦情は受け付けません。闇代も元気に愛想を振り撒いているし、頑張ってるんだから大目に見よう。それに可愛いし。眼福眼福。
「肉じゃがお待ち」
通常メニューを運ぶ狼も、しっかりサンタ服を着込んでいる。無論ミニスカートではないが、代わりに白い口髭をつけていた。何気にノリノリじゃないか?
「お二人さん、ご夫婦ですか? それならサービスしないとですね」
老夫婦に刺身をサービスしている優は、サンタ服を模したエプロン姿で調理をしていた。クリスマスだからなのか、やたらと気前がいい。因みに、一片はいつものように皿洗いに徹していた。勿論サンタ服で。トナカイのコスプレでも良かった気がする。
「お客さん一杯だね~」
「だな」
ウェイターの仕事に追われる闇代と狼だが、多少の雑談を挟むくらいには余裕があるようだ。
「毎年こんなに忙しいと、大変だね」
「今年はお前らがいるからまだいいほうなんだがな。去年は二人だけで、しかも客が大勢来たからてんてこ舞いだったぜ」
「そういえば、そうだったね」
雑談しながらでも、二人は順調に仕事をこなしていく。そうして、徐々に時間は過ぎていき―――
◇
「それでは、本日のメインイベント、『聖夜にみんなでケーキ』の時間でーすっ!」
優の掛け声と共に、店中の客にケーキが配られる。ショートケーキ、チーズケーキ、ブッシュドノエルなど、様々な種類のケーキが切り分けられ、皿に乗せられ、客の手に渡っていった。
「ケーキかぁ……」
「客の前で食うなよ。一応店員なんだから」
「分かってるよぉ~。ちょっと、実家のことを思い出してただけ」
ケーキを見て溜息を吐く闇代に、狼が釘を刺す。そんな彼に抗議するように、闇代はそんなことを言った。
「実家でのクリスマスを、か?」
「うん。パパは今頃、どうしてるのかなって」
闇代の父親は、現在一人暮らしとなっている。折角のクリスマスも、家族がいないと寂しいだろう。
「まあ、家族のためにケーキを自作するような親だからな。そうでなくても親馬鹿だし。今頃は泣いてるんじゃないか?」
「ふふっ、そうかもね」
二人っきりとはいかないものの、大勢の人たちと過ごすクリスマスは、二人にとってもいい思い出になったようだ。
……その頃、美也は。
「メリ~クリスマス~♪ いぇ~い♪」
「「「メリークリスマス」」」
美也の実家にて。クラッカーの音が、部屋中に響き渡った。こっちはこっちで、クリスマスを楽しんでいるらしい。
「美也と一緒に、またクリスマスを過ごせる日が来て、嬉しいな」
「そうね。この日をどれだけ待ちわびたか」
そう漏らすのは、美也の両親。美也は両親と疎遠になっていたのだが、この度、聖夜を共に過ごすことが出来るのだ。
「……本当に、嬉しい」
けれども、一番嬉しいのは美也だろう。涙こそ流していないが、感極まったのか、頬を赤く染めて俯いている。
「確かに喜ばしいけど、年頃の女の子なんだから、彼氏の一人でも連れて来てくれればなお良かったんだけどね」
「なっ……!? 美也に彼氏だと……!?」
伯父の言葉に、父親が過敏に反応した。やはり、父親としては、娘の男関係が気になるのだろうか。
「ちょ、伯父さん……! 彼氏だなんてまだそんな……」
「彼氏はいなくても、気になってる人はいるんでしょ?」
「へっ? あ、う、えっと……」
伯父の問いかけに、口篭る美也。さすが、伊達にあれなゲームを作っているわけではないようだ。
「ゆ、許さんからなっ……! 彼氏なんてまだ早いっ……!」
「あらあら。今度紹介してね」
「……伯父さんの馬鹿」
こうして、それぞれの聖夜が更けていく。




