年始更新大セール
……その頃、一片と紗佐は。
「あの、えっと……これは?」
「昨日の礼ダ」
二人は学校の近くにあるファミレスに来ていた。向かい合う彼らの間には、いくつかのケーキが並べられている。
「礼がケーキバイキングになってしまったのは申し訳ないのダガ……。どうか、気兼ねせずに食べてほしい」
「う、うん、ありがとう」
そう言って、紗佐はケーキに手をつける。最初に選んだのは、やはりというか、苺のショートケーキだった。
「どうダ?」
「……おいしい」
すぐに一切れを食べ終え、次のケーキに手を伸ばす。
「これもおいしい! これも!」
次々とケーキを平らげていく紗佐。テーブルにあった十切れほどを全て食べきってしまった。ついでにテンションも上がっていた。
「もう少し取ってきていい?」
「あ、ああ、バイキングだから、好きなだけ取ればいい」
紗佐は嬉々として席を立ち、皿に山のようなケーキを盛って(合計で2ホールくらい)戻ってきた。
「ああ……幸せ」
恍惚とした表情でケーキを口に運ぶ紗佐。そんな彼女を、一片はヒーコー(コーヒーのことである)を啜りながら眺めていた。
……余談だが、紗佐はこの日の夜、体重計に乗って驚愕したそうな。
◇
……次の日。
「青春って、何なんだろうな」
「何よ、いきなり」
教室に入るなり、狼が突然、ぽつりと上風に漏らした。
「いや、俺って、ちゃんと生きてるのかなって」
「答えにくいこと訊くわね……」
それを聞いていた上風は、やや呆れ気味だ。
「だってさ、少し前までおどおどしまくってた上沼が、一片と出掛けてたんだぜ? あいつ、そういう手合いが苦手だったはずなのに」
「それって昨日言ってた話よね? 何で今頃?」
「いや、昨日、ファミレスでケーキ食ってた、あいつら」
「そうなの!?」
何で狼が知っている? 見かけたのか?
「ああ、昨日見かけた」
あの店の前を通っていたか……。まあ、あの二人は窓際の席に座っていたから、それは彼らの落ち度だろう。
「すげー量のケーキを食ってたぜ、上沼。一片がちょっと引いてた」
「……どのくらい?」
「俺が見ただけで、ざっと2ホール」
「……」
上風も引いている。てか普通引く。お一人様用クリスマスケーキみたいなちっちゃいの2ホールではなく、家族団欒用クリスマスケーキ2ホール分なのだからな、念のため。
「てか、あんだけ食ったら、絶対太るよな。男の俺でも泣きたくなるくらいには」
「……分かった。今日はあたし、紗佐に優しくする」
何キロ増えたかは伏せておくとしよう。そのくらいの数値なのだから。
「で、何でそれで青春?」
「昨日読んだ小説のフレーズ」
「発言内容が感化されてる!」
よくあることだ。日常の風景と言ってもいい。
「因みに、あんたは十分青春真っ只中よ」
「どこがだよ?」
「例えば―――」
とそこで、教室の戸が勢い良く開かれた。
「狼きゅーん!」
そこから飛び出した少女―――当たり前だが闇代―――は、矢のように狼へ襲い掛かる。
「はぁっ!」
「ひゃぅん!」
しかしそれも、狼の鞄で叩き落とされる。床にひれ伏す闇代を眺めながら、上風は先程の言葉を続けた。
「闇代ちゃんに愛されてる所とか」
「……青春って、こんなに迷惑だったんだな。―――っぉ!」
などと感傷的になっていたら、突然両足首を掴まれた。
「ふっ、ふっ、ふっ……闇代ちゃんは青春を絶賛満喫中だよ」
掴んだのは、勿論と言うべきか、闇代だった。
「ゾンビかお前は!?」
「乙女の恋心はゾンビ並みの執念を齎すの」
初耳だ。そして怖い! ていうかヤンデレだよ!
「というわけで、早速―――」
「待ったぁーーー!」
いつものようにほのじの登場。
話がこじれそうなので、とりあえずこの辺で区切ることにしよう。