年末更新大セール
……翌日。
「狼君おっはー」
学校に着くなり、狼に飛びつくほのじ。
「よっ」
狼は片手を挙げてそれに応えつつ、ほのじのダイブはひらりと躱す。目標を失ったほのじは、そのまま床を滑っていく。
「うぅ~……。それはそうと、闇代ちゃんは?」
切り替え早いな。と思いながら狼は答える。
「あまりにも重症だから、一片に頼んで隔離中」
「?」
闇代が暴走しないように、一片が付き添って登校しているのだ。闇代の身体能力は霊術強化による補正が大きいので、霊術無効化フィールドを展開できる一片の傍では、彼と同等程度の力しか発揮出来ない(それでも狼にとっては十分脅威)。それにより、闇代の暴走を抑えた状態で登校させるのだ。……まあ、着いた途端に暴れそうな気がするが。
「それより、何か用か?」
「愛しの狼君に会いに来たの」
直後、狼のチョップがほのじの脳天に直撃する。……容赦ないな、ほんと。
「いった~いっ!」
「ふざけてるからだ」
だからって、いきなりぶたなくても……。という顔をしているぞ、ほのじが。
「冗談だったのに……」
「だったら本題をさっさと言え」
ほのじはポケットから紙切れを取り出すと、それを読み上げた。
「『戸沢背理夫の、以下の項目について聞いてくること。一、趣味。二、好みの女の子のタイプ。三、好きな食べ物。四、愛読書』、だって」
「……それは、さみに頼まれたのか?」
さみ、つまりはほのじの妹に頼まれたのだろう。理由は大体察しがつく。
「ほんと、何がしたいんだろうね」
「……とりあえず、俺は何も知らんって伝えてくれ」
てか、狼はどれも知らんと思う。あれとはプライベートな話はしないからな。
「うん、分かった」
さてと、さっさと教室に行ってもらおうか。
「あ、狼」
教室には上風がいた。闇代と一片はまだ着ていないようだ。
「それにほのじも。今日はそっちと一緒なの?」
「馬鹿言え」
まあ、ほのじがついて来るのは予想の範疇だ。
「闇代ちゃんは?」
「後から来るだろ」
「じゃあ、一片は?」
「それも後で」
闇代はいいとして、何で一片のことなど訊くのだろうか。普段はまったく意に介さないのに。
「だってさ、紗佐」
「え、えぇっ……!」
何故紗佐が驚く。ていうかいつの間に……。
「紗佐ね、昨日一片とデートしたんだって」
「で、デートだなんて……!」
意地の悪い笑みを浮かべる上風と、慌てふためく紗佐。……昨日のあれって、デートに入るのか?
「それって、あのコスプレ電話のときか?」
「コスプレ電話?」
「チャイナ服とスク水とメイド服と兎の着ぐるみのどれがいいかって訊かれたんだ」
「何そのチョイス……」
突っ込まないであげてくれ。彼は割りと真剣だったんだ。
「上沼が着るのか?」
「ななな何でっ……!?」
紗佐は顔を真っ赤にして飛び上がる。上風はそれを面白そうに見て、
「ははん、やっぱりあんた達、そういう関係だったの?」
「そそそそういう関係って何……!?」
まあ、この調子だと収拾がつかなくなるので、この辺で止めておく。
◇
……放課後。
「狼きゅーん!」
チャイムが鳴った途端、闇代が狼に飛びついた。
「のわっ!」
逃げ遅れてしまった狼。闇代に押し倒され、圧し掛かられる。
「おい一片!」
叫ぶが、一片は既に姿をくらましていた。
「はぁ……、はぁ……、待ちに待った、狼君、だよぉ……」
激しい動悸に不規則で浅い呼吸。無論、体調不良ではなく、いつものあれだ。
「狼きゅ~ん」
「ぐわっ!」
思いっきり抱きしめられ、狼の背骨と肋骨が軋みを上げた。肺は押し潰され、空気が外へ吐き出される。苦しげにもがくが、闇代の締め付けが緩まることもなく、また、呼吸をすることさえ叶わない。
「狼きゅ~ん……しよ?」
闇代の腕が緩まり、酸欠状態だった狼は酸素を求めて空気を吸い込む。しかし、闇代は彼の制服に手を掛け、シャツのボタンを、一つ一つ外していく。……大丈夫だろうか? このままだと、描写出来ないことになるのでは?
「必殺、アイ・ラヴ・ウルフッ!」
と思ったのも束の間、ほのじが闇代に跳び蹴りを放つ。助かった……。
「っと……!」
しかし闇代は、ほのじの足を掴んで止めてしまった。……前回よりスペックが上がってないか? バトルに発展しないといいが……。
「きゃっ!」
足を取られたせいで、体の支えを失い、バランスを崩して床に頭を打ちつけるほのじ。起き上がろうとするが、片足を封じられているため出来ない。
「わたしに同じ技は二度も効かないよ」
「くっ……」
もう片方の足で蹴りを入れるが、それも掴まれてしまう。そして両足を持ち上げられ、
「飛んでけぇーーー!」
「きゃあーーー!」
開いていた窓から投げ出されてしまった。……一応、ここは一階だが、大丈夫だろうか?
「ふぅ……それじゃあ、ゆっくりと狼きゅんを―――」
「いい加減にしろっ!」
「きゃっ!」
ほのじを投げて出来た隙を突かれ、狼の拳を顔面に受ける闇代。床を転がり、頭を机の脚に打ちつけてしまった。
「大丈夫なの、あれ……」
「ほっとけ。殺しても死なない奴らだ」
実際、ほのじはすぐに窓から這うように戻ってきたし、闇代もすぐに起き上がった。もっとも、狼はその前に帰ってしまったが。