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クインテット。ナイツ 日常編  作者: 恵/.
P―繋がる。ナイツ
16/36

これで暫く更新止めるかも

「ふむ、結局、めぼしい物はこれだけであったか」

 一片が選んだのは、雑貨屋で確保しておいたぬいぐるみ。一応ラッピングして、店で貰った袋に入れている。

「でも闇代ちゃん、絶対に喜ぶよ」

「まあ、本当は向坂狼が贈るべきかもしれないが……とりあえず、あいつと被らないように調整しておくか」

「一片さん」

 突然、紗佐が声のトーンを変えた。

「それは、一片さんが闇代ちゃんのことを考えて選んだプレゼントだよ。確かに、闇代ちゃんは向坂君からプレゼントされたら凄く喜ぶと思う。だけど、それは決して一片さんのプレゼントが向坂君のより劣っているわけじゃないよ。だから、自信を持っていいと思う」

「……そうかもしれないな」

 一片は、今までの自分がとても滑稽であったとでも言わんばかりに笑って見せた。

「ありがとう。態々、こんなにも付き合ってくれて」

「い、いえ、私なんか、全然……」

「いや、感謝するぞ」

 そう言われて照れたのか、紗佐は頬をほんのり朱に染める。

「しかし、お前も普段から堂々としていればいいものを」

「えっ?」

「今日みたいに、特に先程のように堂々としていれば、周りからの評価も、もう少しよくなるのでは?」

 確かに今日の、特に先程の紗佐は、いつもと違った雰囲気だった。

「……私って、他人と話すのが苦手なんです」

 紗佐は呟くように、話し出した。

「他人と話すときは大概敬語で、普通に話すようになっても、どこか遠慮がちで……。家族が相手でも、未だに気を遣うんです。だから、人と話すのが苦手で……。でも、今日は違いました。初めて、人と対等に話せた気がします。これも全部、一片さんのお陰です。こちらこそ、今日はありがとうございました」

 深々と礼をする紗佐を見て、一片は一言。

「……とりあえず、敬語は止めて欲しい」

「あっ……すみません」

 そんなやり取りをしていて、ふと、どちらからともなく笑い合う。そんな微笑ましい光景が、ここにはあった。


「上沼さん……」

 そんな二人を、あかりは物陰から眺めていた。彼女は今まで、二人の後をこっそりとつけていたのだ。そして、今もこうして、二人の様子を窺っている。

「やっぱり、上沼さんも……」

 笑顔で話す紗佐を、寂しげに眺めるあかりであった。



  ◇



「……」

 こっそりと、玄関の扉を開くあかり。足音を殺して、家に入る。

「おかえり」

「きゃっ……!」

 いきなり声を掛けられ、飛び上がるあかり。

「ごめんごめん。驚かせちゃって」

 この声はあかりの祖父だ。玄関で一体、何をしていたのだろうか?

「……何?」

 あかりが、やや不機嫌気味に尋ねる。祖父は頭を掻きながら、気まずそうに答えた。

「いや、あかりが帰ってきたから、出迎えに」

「……そう」

 あかりは靴を脱ぐと、自分のスリッパに履き替える。そこでふと、問いかけた。

「……怒らないの?」

「ん? どうして?」

 祖父は、わざとらしく首を傾げている。

「だって、門限破ったのに……」

 七時で既に門限破りとは……。どんだけ厳しいんだ、この家。

「別に、その門限は僕が設けた訳じゃないし。それにさ、高校生ともなれば帰りが遅いことも多いだろうし。その位のことで一々目くじら立てないよ」

「……ふーん」

 あかりはそれで満足したのか、自室へと向かった。

「あかり」

 しかし、途中で祖父に呼び止められる。あかりは足を止め、無言で振り返った。

「何だか、元気がない気がするけど、大丈夫?」

「……どうして、そんなこと聞くの?」

 あかりは若干の戸惑いを覚えながらも、質問に質問で返した。

「いや、なんとなく気になったから」

「……別に、何もないけど」

 あかりはそのまま、二階へ上がってしまった。

「……本当に、何もないといいけど」

 その背中を、彼女の祖父は不安げに見つめていた。

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