男はいつの時代も女の敵です
そんな何気ない光景を、あかりはぼんやりと眺めていた。
(……あのロリコン、ハーレムでも作るつもり?)
そして、内心悪態ついていた。ロリコン、というのは勿論、狼のことだろう。現在、クラス内での狼の印象は『ロリコンな危険野郎』なのだから、普通の感想に思える。
(まったく、男ってみんなそう。女を独占して、自分の欲望のままに弄ぶ。特にロリコンとシスコンは死滅して欲しいわ)
だがそれを考慮しても、あかりの考えは少々きつい気がする。
「ほれほれー苦しゅうない苦しゅうない」
「やめろってのっ!」
「はぁはぁ……狼きゅ~ん!」
彼らの声は、教室中に響き渡っている。尤も、それはいつものことなので、周りは然程気にしてないようだ。
(ほんと、男なんて、死ねばいいのに)
こんな感じで、日常は過ぎていく。
◇
……翌日。
「……んっ」
あかりは身を捩り、ゆっくりと起き上がった。
「……」
そして無言で、ベッドから出る。いつものように手早く着替えを済ませ、部屋を出た。
「おはよう、あかり」
部屋を出たところで、祖父と廊下ですれ違った。
「……おはよ」
ぽつりと、呟くように返すあかり。
「どうした? 今日はいつもより元気がないみたいだけど」
「……別に」
あかりはそう答えるが、実は図星だったりする。
(……眠い)
理由はただの寝不足だが。
「そうか。ならいいけど」
祖父は何か気になっているようだったが、結局何も訊かずに歩いていった。
◇
……そして学校。
「天野さん、おはよう」
いつも通りの上風。
「……」
あかりは、いつものようにスルー。
「あ、天野さん。おはよう」
上風の後ろから、紗佐がひょっこり顔を出す。
「……おはよ」
あかりはそう、小さく返した。そして自分の席へと行く。それを見ていた上風は少し考えて、紗佐に問いかける。
「いつも思うんだけど、天野さんって紗佐とだけ話してない?」
上風に言われ、紗佐は首を傾げた。
「そんなことないと思うけど……」
「そんなことある。だって紗佐だし」
「……失礼だと思うよ、その言い方」
実際、あかりがクラス内で紗佐以外と言葉を交わしたところなど、見たこともない。紗佐相手もさっき見ただけだが。
「あんたって結構可愛いのに、男より女の子との接点が多いよね」
「それも失礼だと思う……」
一片は数えていないのか?
「何ダ?」
噂をすれば何とやら。ご本人登場だ。
「いや、それこっちの台詞だから」
「呼ばれた気がしたのでな」
おっと、聞かれてしまったか。気をつけねば。
「ではな」
と言って、一片も自分の席に着く。
「相変わらず謎よね、あいつ」
上風が呟いている間に、紗佐は一片のほうへ歩いていく。
「あの、一片さん」
「何ダ?」
鞄から教科書を取り出す動作を止め、紗佐のほうを振り返る一片。
「例の話なんだけど、今日辺りにでも下見に行かない?」
「例の話? ああ、あれか」
何の話か分からない。
「そうダナ。放課後にでも頼む」
「はいっ」
……まあいいか。口を挟むのも野暮だ。