何か初っ端から重苦しい
今回は本編のOから少し後の時間です。新キャラが出てきたり色々してますが、あまり気になさらぬようお願いします。
……赤い。赤が見える。いや、紅いというべきか。
紅い海。骸の島が点々と浮かぶ、紅の海。砂の大地を侵食し、その紅を拡げていく。
右手には、母の形見の小さな鎌。左手には、同じく形見の鏃。地面には、柄のない槍、前方後円墳のような鈍器、二つの円錐が連なった物体がそれぞれ転がっている。どれも、海の紅に濡れている。
それと共に、他の感覚も戻ってきた。
海の温度を感じる触覚。
誰かの泣き声を聞き取る聴覚。
生臭い匂いを嗅ぎ取る嗅覚。
そう、俺は、
こいつらを、殺した……。
◇◇◇
「……最悪の目覚めだ」
狼は、よろよろと起き上がった。
彼は先程まで、夢を見ていたようだ。
「最近、闇代が鬱陶しいからな……」
思い出して、顔を顰める。
そして狼は、着替えを始めた。
……一方その頃。
「……最悪の目覚めね」
上風はむくりと起き上がる。どうやら、狼と同じ夢を見ていたようだ。
「何で、今になって……?」
頭を振って、脳内の映像を振り払う。
「さっさと支度しよ」
上風は、手早く着替えを済ませた。
……時を同じくして。
「……んっ」
少女は身を捩り、ゆっくりと起き上がった。
「……」
そして無言で、ベッドから出る。少女は手早く着替えを済ませ、部屋を出た。
「おはよう、あかり」
台所から、女性が振り返る。少女の母親だろうか。
「……」
少女は無言で食卓に着く。母親によると、名前はあかりというらしい。
「おはよー、おねーちゃん」
あかりの隣から、可愛らしい声が聞こえてくる。この声の主は、あかりの妹だろうか。
「……」
しかしあかりはそれにも応じない。
「おはよ、姉貴」
「おはよう、ねーちゃん」
「おはよう、あかねえ」
彼女の弟妹と思われる少年、少女たちが次々と席に着くが、あかりは一切反応しない。
「おはよう、あかり」
今度は男性。彼女の父親なのだろう。
「……」
だが、あかりはやはり応じない。
「みんな、もう揃ってるな」
最後に、初老の男性がやってきた。彼女の祖父だろうか
「おはよう」
「おはよ」
「おはよー」
「おはようございます」
皆、口々に朝の挨拶を述べる。
「みんなおはよう」
そしてそれに、笑顔で答える祖父。
「……おはよ」
あかりは、ぼそりと呟く。
「おはよう、あかり」
彼はそれにもしっかり応じる。
「あかりの学校は今日から再開みたいだけど、十分に注意するんだぞ」
「……ん」
再開、というのは、暫く学校が休みになっていたからだろう。先日の某事件によって、念のために休校、となっていたのだ。事件の原因となる二人は既にこの町を出ているので、別に注意する必要はないのだが、事件に係わっていない彼らがそれを知る由も無い。
「結構大きな事件だったからな」
「近頃物騒、なんてもんじゃないわよね」
両親の会話を聞き流しながら、朝食を黙々と口に運ぶあかりであった。