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クインテット。ナイツ 日常編  作者: 恵/.
N―好かれる。ナイツ
10/36

え、何でこの人なの……?


 ……同日の放課後、校内の廊下にて。


「……ふぅ」

 本日の業務(下らない雑用)を終わらせ、帰り支度を済ませる戸沢。溜息を吐きつつ、教室を出る。

「まったく……」

 何故こうも、毎日下らないことばかりなのだろうか。と言う言葉は、どうにか口に出さずに済んだ。今日は愉快なクラスメイト(馬鹿馬鹿しい奴ら)がとても楽しそうにしていて(騒がしくて)、実に充実していた(不愉快だった)。あれ? どこかおかしい気がする。

 そのままブツブツと呟きながら、廊下を進んでいく戸沢。どうやら周りが見えてないっぽい。そんな危なっかしい歩き方してたら、何かにぶつかるぞ。

「きゃっ……!」

「おっと……」

 そら、言わんこっちゃない。曲がり角で女子生徒と正面衝突してしまったではないか。

「痛っ……」

 戸沢の眼前にいる女子生徒は、スカートの上から尻を摩っている。尻餅でもついたのだろうか。

「あっ……、ご、ごめんなさいっ!」

 そして戸沢に気づき、勢いよく頭を下げる。対して戸沢は軽く鼻を鳴らすと、制服を手で払った。

「余所見はくれぐれも止してくれ。迷惑だ」

 自分の行いを棚に上げて、よく言えたものだ。

「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!」

 女子生徒は未だに謝り続けているが、戸沢は興味をなくしたようで、彼女を放って昇降口へと歩いていく。


「ごめんなさ……あれ?」

 彼の姿が見えなくなった頃、女子生徒はようやく戸沢がいなくなっていることに気づいた。

「あぅ……」

 しょんぼりと肩を落とし、立ち上がろうとする。その時、彼女の目に四角い物体が映った。

「あれ……? これって……」

 それは、この学校で用いられる生徒手帳だった。生徒の個人情報が記録されている。

「さっきの人が、落としたのかな……?」

 少女はそれを拾い上げ、持ち主の名前を確認するため、一ページ目を開いた。

「戸沢、背理夫……」

 そこには戸沢の名前、所属クラス、顔写真などが載っていた。

「……か」

 か?

「か、」

 か?

「かっこいい~!」

 ……戸沢が、だろうか? 彼は見た目の特徴が眼鏡だけで、身に纏う雰囲気は高飛車な優等生といった感じなのだが……。まあ、写真で雰囲気までは分からないだろうが。

「あ、でも、これ拾ったんなら……、また、会える、よね?」

 確かに、クラスも書いてあるから、落とし主に届ける名目で会いにいけるだろうが。

「……よし」

 何故そこでガッツポーズ?



 ……翌朝。


「「狼くーん!」」

「いい加減にしろや!」

 例の如く、両サイドからWタックルを喰らう狼。もう、この光景も見慣れてきたな。

「とっとと放せ!」

「きゃっ!」

「やんっ!」

 二人を跳ね除け、席に着く狼。

「んもう、恥ずかしがり屋なんだからっ」

「でも、そんなダーリンも可愛いよっ」

「鬱陶しい!」

 なおも擦り寄ってくる二人に一喝し、軽く溜め息。

「……何やってるの?」

 するとそこへ、昨日の少女がやって来た。狼たちを見て、複雑な表情をしている。

「あれ、さみ?」

「あれ、じゃないよ」

 そう言えばあの子、顔立ちがほのじと似ている気が……。

「誰なのこの子?」

「ああ。ほのじの双子の妹で、さみだ」

 双子だったのか。確かに似ているが、瓜二つと言うほどでもないので、二卵性なのだろう。

「ひょっとして、また狼君に迷惑掛けてるの?」

「掛けてないよ」

「掛かってる。とっても迷惑だ」

 まあ、否定してもそうなるわな。

「だって」

「うぅ……」

 さすがのほのじも、妹には弱いらしい。

「ほら、狼君に迷惑掛けないの」

「は~い……」

 妹命令に、とぼとぼと肩を落として去っていくほのじ。その姿が、なんだか哀れに見えてしまう。

「で、お前は何しに来たんだ?」

「あっ、そうだった」

 彼女は彼女で、当初の目的を忘れていたようだ。

「戸沢背理夫さんって、このクラスだよね?」

 その名前に、狼は一瞬だけ顔を顰めた。

「……そうだが」

「どこにいるか、分かるかな?」

「休み時間は図書室にいるか、先生に仕事を頼まれてるかのどっちかだと思うが、今はまだ来てないかもな。……あいつに何か用か?」

「よ、用ってほどじゃ、ないんだけど……」

 俯いて、両手の人差し指をつんつんするさみ。

「急用なら携帯で呼び出してもいいが、そうでないなら放課後に来ればいい。今日はちゃんと残る日だからな」

「うん、分かった」

 そう言って、さみは自分の教室へ帰っていった。



  ◇


 ……放課後。


「……失礼します」

 さみが遠慮がちに、狼たちの教室に入ってきた。

「おう、待ち人はちゃんと来てるぜ」

 狼は、戸沢を親指で示しながらさみを出迎えた。

「いきなり何なんだい? 人を指差さないでくれ」

 対して戸沢は、不満そうに声を上げた。

「んなこと、どうでもいいから。で、こいつに何の用なんだ?」

「あ、うん……これなんだけど」

 さみは懐から、生徒手帳を取り出す。

「これがどうした?」

「えっと、昨日、戸沢さんが落としていったの」

「なるほど。態々拾って届けようとして、だけど本人がいないから待ってたのか?」

「う、うん……」

「そのくらい、俺らに預けてくれればちゃんと渡したのに」

「いやでも、こういうのはちゃんと本人に渡さないと……」

 私情が混じっていたことは、言わないのが優しさだろうか。

「まあ、そこのロクデナシに預けなかったのには感謝するよ」

 そう言うなり、戸沢はさみの手から手帳をひったくった。

「「……」」

 そんな彼を、他の面々が呆然と眺めている。

「な、何だい?」

「いや、戸沢が礼を言っていると思ってな」

「うん。戸沢が礼を言うなんて、明日は絶対雨ね」

「いや、逆に今日で梅雨明けして一年間晴れ続けそうなくらいだよ」

 酷い言われようだ。

「失礼な。僕だってちゃんと礼くらい言う」

「「初めて知った」」

 異口同音を体現するかのように、皆口を揃えて言う。そんな様子に、戸沢は心底不満らしい。

「で、何で君まで呆けているんだい?」

「えっ……?」

 見れば、さみまでぼんやりしていた。ただし、彼女の場合は他の者達と少し違っていて―――

(はわわっ! お礼言われて、その上話しかけられちゃったよぉ~!)

 内心とても慌てていた。頬はどんどん赤く染まり、恥ずかしさに耐えられず俯いてしまう。

「とにかく、手帳を態々届けてくれたのには礼を言う。もう帰ってくれても構わないよ」

「し、失礼しますっ……!」

 くるりと体の向きを変え、逃げるように教室を飛び出すさみ。戸沢はさっさと出て行って欲しかっただけなのだが……意思の疎通が出来ていない模様。

「……あいつ、大丈夫だろうか?」

 そんな彼女を見て、狼は呟く。それは、彼女の真意を察してのことなのだろうか?

 ともかく、さみの勘違いはまだ続きそうだ。

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