1-1話 決意
お母さんに抱えられていた坊やは大きくなりました。
ドドドドドドドドドドドド
何かが勢いよく階段を駆け上がってくる。私はとっさにずり落ちていた掛け布を体に巻いた。
バタン
勢いよく私が寝ている部屋のドアが開いた
「お兄ちゃん!おきなさーーーーい!」
そういって妹が私に巻きついている掛け布をとる。
「…ねむい」
無駄だとわかってるが一応抵抗してみる。
「もぅ。しょうがないなぁ」
そう妹が言ったのを聞いていた私は急に体が宙に浮いた。
その後お尻から地上に落ちた。
「ぅぅぅ。痛いからそのおこし方は勘弁してくれ」
「おはようお兄ちゃん」
私が何かした?というような顔をした後、満面の笑みで挨拶してくる妹。
「おはようアイナ。頼むから次からは持ち上げて落とすおこしかたはやめてくれ」
お尻をさすりながら床に座り、妹に頼み込む。
「ご飯が待ってるよお兄ちゃん。さあ、早く!」
といって、妹は黒い角の生えた頭から生える、美しく長い黒髪をひらりとさせ、Uターンする。
妹アイナ・ヒートは有角種という頭から角が生えている種である。
この世界に存在するどんな種からも生まれる可能性がある有角種だが、その特徴から親の種とは別種として考えられている。
有角種は親の種の得意とすることに秀でる代わりに、その他がからっきしダメになる種で、例えばドワーフでは鍛冶力がものすごく成長する代わり魔法などは全く使えないなど成長が一本化している。
とはいえ1つのことがとてつもなく成長するので社会的な地位は高くなる傾向にある。
特にアイナは有角種でも珍しい黒い角をもつ種で、黒い角は他の有角種とは違って、どんな能力も急成長するので将来は貴族になること間違いないと思われる。
現に今は国の推薦で国営のエリートや貴族が通う学校に通っている。
実はこれが結構ネックで、うちは貧乏である。
アイナの学費は国がほとんどを保証してくれてるが、それでも何とか払えるくらいの収入しかない農家である。
当然兄である私に学校などに行けるほど余裕もない。
まぁ金に余裕があっても私のような劣勢種に学校へ行かせる家なんてないであろうけどね。
などと考えていると動こうとしない私にしびれを切らしたアイナは
「お兄ちゃんが動かないなら私が運んで降りるからね!」
といって私を持ち上げ下まで行こうとする。
「っちょおま。すまん動くから持ち上げないで!!!」
「じゃあはやくぅ~」
そういってアイナはほほを膨らませ私を見てくる。
このまま座っていると本当に下まで運ばれかねないので、しぶしぶ立ち上がりぼさぼさの白い髪を手でなおし、アイナと下に降りる。
「ふふふおはようクレナ。アイナに頼むとお寝坊さんのクレナも早く起きるのね」
と笑いながら母エーリカ・ヒートは語りかけてくる。
「おはようクレナ。私じゃどんなに頑張ってもクレナはおきないからな」
そう笑いながら父ガードン・ヒートは語りかけてくる。
「父さん母さんおはよう」
そういって私は2人に挨拶をする。
私ことクレナ・ヒートは前世の記憶がよみがえってから13年たって言葉を話せる青年になっていた。
「お兄ちゃんしっかりしてよね。私また明日からいなくなるのだからね。」
アイナの学校は全寮制なので学校が始まれば家に帰ってこない。
まぁ全寮制でなくても王都に学校があるので王都から2日もあるかないとつけないこの家からは通うことはできない。
「そうねぇ、アイナがあしたからいなくなると明日からはお父さんがおこしにいかないといけないわねぇ」
そう母さんが言うと、父さんが少し困った顔をした。
「そのことなんだけど、みんなに聞いてほしいことがあるのだけど…」
そう私が言うと3人はなんだろう?と顔をしながら私に顔を向けた。
「えええええええええええ!無理無理無理!お兄ちゃん何バカなことを考えてるのよ!絶対無理」
「そうよクレナ。あまり言いたくはないけどあなたは白種なのよ」
「…」
以上が私の話を聞いた家族の反応で、上からアイナ・母さん・父さんである。
「自分が白種であることもわかってるし、力もそんなにないこともわかってる。だけど、この知識だけはどんな人にも負けない自信があるし、危険な仕事さえ選ばなければ問題ないさ」
そう言うが、アイナと母さんは反対の姿勢を崩さない。
私が提案したのは15歳になり成人したから冒険者になりたいということである。
もともと貧しい暮らしをしている上に、アイナの学費なり農具の手入れ代なりでかなり資金的に厳しい家に、役に立たない成人男性を置く余裕などほとんどない。
成人となった私は成人らしく自立すると決めたが、私の種はこの世界でいないほうがまだましといわれるくらい何もできない種である。
どんな種からもかなりの低確率で生まれる種で、生まれながら体の一部もしくは全部が白い。
その上成長しても脳以外成長が遅いので、体力はないし力もない。
魔法を使うのに必要な魔力もすくないことで有名である。
そのため就職先がほとんどなく、選択肢として残る種は冒険者か売春婦か汚い仕事である。
運よく前世の記憶がある私はそれを使えば冒険者として大金を手にすることはできなくても必要最低限の生活はできるだろうと考えたので、冒険者になりたいといったのである。
「クレナ。うちは貧しいがあなたを養えないほどではないのよ。あなたがダメなのは生まれながらに持ってしまったものだからしょうがないのよ。お金のことは心配しないでお願いだから危ないことはしないで」
「そうだよお兄ちゃん。お母さんもそういってるし、あと1年で私も学校卒業できる。そうなれば国の騎士になれるからお金もかなり入るから」
「・・・」
反対意見を崩さない母さんと妹に対し、父さんはさっきからかなり難しい顔をしている。
「ごめん。こればかりは聞くことはできない」
私の決意は固かった。
確かに白種がいくら遺伝的にダメな種でもいつまでも、貧しい家で両親に甘えて育った私としては両親の負担を減らしたかったし、自分自身がいつかはアイナよりも強くなることは分かっていた。
母さんが何かを言おうとしたが、父さんがそれを止め重い口を開いた。
「クレナ。お前が言った言葉は私たちにとって、またお前にとってどれだけ重い言葉かわかっているのか?」
父さんの目はいつも見せる優しい目ではなく、何かを決意した父親の目立った。
「はい」
私は短く、けれども強い口調で答えた。
父さんは目を一度つぶりゆっくりと開いてこういった。
「成人したのだ。好きにするがいい」
厳しくもやさしい父親の一言だった。
そんなやり取りがあった日から3日たった今、私は餞別代りに父からもらった銅剣(農家でも戦争があれば駆り出されるので武器を持っているが、貧乏なので一番安い銅の剣しかない)を腰に差し、王都行きの商人の一行に交じって歩いていた。
この世界はラクラシナという世界である。
実はこの世界は前世の私が廃人クラスまでやったオンラインRPGゲーム『炎の盾と水の剣』と同じであった。
このゲームはもともと同名のTRPGだった。
そのためかなりの自由度があり人気があった。
この世界では生まれながらのオチコボレである白種は実は普通の種よりもかなりの長生きの上、ある一定ラインまでは育ちは悪いがそのラインを超えた途端、黒い有角種よりもありえないくらいの急成長をするので、最終的には最強のキャラであった。
そのためゲームで人気があった…わけではない。
というのもオチコボレに与える仕事は少ないうえにステータスも伸びない。
依頼を受けようにも失敗した時に払う用の契約料金が他のキャラに比べ2倍(黒い有角種は0.5倍)だったりとデメリットも出かかったため選ぶ人は少なかった。
実際、前世の私は白種でやってたが、最初は敵が強くて倒せないし、パーティ組んでもらうこともできなくて大変だった。
極めつけは白種が他のキャラよりも強くなるのは終盤も終盤で下手したらメインクエスト(ゲームのストーリクエストのこと)最後のクエスト終了後しても最弱キャラの可能性がある。
そのため生き残ることや少ない金で物をやりくりするための知識は嫌でも身につくのが白種プレイヤーである。
私が冒険者になった理由は前世のそのような記憶があるからである。
「おい、クレナ。ここらで少し休もうか」
そういうと商人のおっちゃんは木陰に荷物を運んでいたロバを避難させ水筒の中の水を飲んだ。
王都まではあと半日だし急ぐ必要もないと判断した結果である。
「はいダーレスさん」
そう商人のダーレスさんに返事をすると木陰に隠れ座った。
そしてこれから王都で何をするかゆっくりと考えることにした。
次回は王都到着した後の話です。銅剣が回想しているって文章になってましたので最期を一部変えました。