2-6話 孤独の守護者
これにて2章終了です
ガーディアンを倒した後部屋の一番奥にあるレバーを下した。 もちろん罠探知してないことは確認済みだ。 オンラインゲームではこの迷宮のボスはこの壊れかけのガーディアンである。
そもそもなぜ壊れているかというと、今まで入ってきた冒険者などに壊されたという設定だったはず。 もともとこの迷宮は中級者がチームを組んで攻略するもので、経験値稼ぎ用の迷宮である。 そのためそこそこの強さの敵を複数配置し、プレイヤーを攻撃する予定だった。 しかし、魔族との戦争に使われる最前線の基地だったという設定から強い護衛ロボがいないのはおかしいということになり強い護衛ロボを置いた。 そしたら今度は敵が強くなりすぎたため結局トラップを多くし、敵を1体強いのを配置したのである。 壊したのはそのままでは中級者では倒せないので、弱くするために壊した設定にし、ところどころ弱くしたのである。
今回は脱落者もなく(ただし脱落しそうだった者はいる)何とかなったのは、アイナの強さと後衛の攻撃がことごとく決まったからである。
「さて、これでこの部屋も終わったから残るのは中央の部屋だけかな?」
アイナが確認をする。少し休憩した後中央の扉を開けるために進んでいく。
4方にドアがある部屋に戻り、石の扉がある中央の部屋に向かう扉のところに着いて
「この先に何かいるか確かめなくていいのか?」
エドガーさんが扉を開けようとしていたドリーさんを止めて聞いてきた。 それもそうかと言いながらドリーさんは後ろに下がりウルカナさんが聞き耳をする。
聞き耳はその名の通りで壁やドア越しに音を拾うスキルである。 職業盗賊で手に入れられるもので、盗賊職の上級でも100%成功するとは限らない判定スキルである。
「この先からは何も音は聞こえませんよ」
ウルカナさんが言うと皆武器を構えて、ドリーさんがドアを開けた。
ドアの先には石の扉はなくなっており、その代わりに紋章が刻まれた大きな鉄の扉があった。
「これは?」
「鉄の扉でしょう」
エリスさんの問いに私がすぐ答えたら睨まれた。うん…知ってるよね…
「そんなことがききたいのではなく、この紋章のことよ」
エリスさんが怒りながら聞いてくる。
「見たことない紋章ですね…」
ウルカナさんが紋章を見上げながら答える。ほかの人たちも同じ意見らしい。
「ここに何か書いてあるよ」
アイナが扉の右下に刻まれている文字を見つけて皆を呼ぶ。
扉には『二つ目の扉開かれた。英雄たちと魔族は衝突し、裏切り者は殺された』と書いてあった。
「これって5英雄伝説の歌だよね?」
アイナが私に聞いてくる。
「5英雄伝説の歌にこのようなものありましたっけ?」
ウルカナさんがきいてくる。 少し話し合った結果、私とアイナが昔聞いた歌はほかの人と少し違うことが分かった。
5英雄の歌は全部で10曲からなり、この歌は9曲目になる。 9曲目は5英雄が邪神がいる塔に入るところから、邪神を封印するまでの歌である。 邪神のところまでに3人の守護者を倒すところは『●つ目の扉開かれた。』から始まる。 9曲目では、私たちの知っているのと一般に知られているのでは二つ目のところだけが違った。
一般のものは『二つ目の扉開かれた。英雄たちは聖剣で、魔族たちをなぎ倒す。英雄が去る背中を見ながら魔族たちは涙を流す。』であるらしい。 私たちが知っているのはかなり長く、まとめると裏切り者が作った2振の剣が反発し、剣が砕けてこの地に降り注ぐ。 このかけらが守護の剣となり、この剣に触れたものはすべてのけがが治ったとされる。 5英雄は3人の守護者のうち一人を倒し、魔族を開放して次の扉に向かったとされている。
「何故魔族を開放するのですか?」
エリスさんがきいてくる。
「5英雄に聞いてくれ」
不満そうな顔を向けてくるエリスさんを無視し、扉に向き直る。
「これは発明神 エルシーの紋章だね」
「発明神 エルシー?」
ドリーさんが誰だそれと聞いてくる。
「第二の始祖神の子によって神になった小神よ」
エリスさんが呆れたようにいう。不満を漏らしたり、呆れたりエリスさんは大変だなー。
「で?なんでここに?」
「裏切り者だからでしょ?」
ドリーさんの問いにアイナが当たり前でしょうという顔で答える。 エルシーは第一の始祖神を裏切り相手側に着いたとされている。
「歌にかけたのでは?」
アイナは飽きたらしく、適当に答えてから先に行こうとと提案する。
実は5英雄の歌に出てくる裏切り者はエルシーで、裏切って第一の始祖神側についたのである。 ゲーム通りならこの先にはエルシーが作った2振の剣が砕けてできた剣があるはずである。
「開けるぞ」
そういってドリーは扉を開け、警戒しながら中に入る。 広い部屋となっていてその中央には剣が1本ある。
「死体がある」
アイナが死体に向かって歩き出す。 剣の前に死体が座るような形であり、その死体は腐り方から大分昔のものだと思われる。
「アイナ!近づくな!」
私がそう叫ぶとアイナは止まるが、遅かった。 死体が動き出しアイナを襲う。
「ゾンビか!」
ドリーさんそう言ってが近づこうとするが、エリスさんがそれを止める。
「大地の神よ。彼に安らかな眠りを。」
エリスさんがそうつぶやくとゾンビは崩れ落ち、そのまま肉の塊となる。
ゾンビが消えると剣が光だしどこからか声が聞こえた。
「彼は逝かれたのですね。長き間、恐怖という苦しみから解放されたのですね」
「だれ?」
私は問いかける。
「お兄ちゃん?どうしたの?」
「アイナ声が聞こえなかったのか?」
「声?」
私以外誰も聞こえなかったようだ。
「私の声はあなた以外には聞こえません。真実を知り、神の使命を受けているあなた以外は聞こえません」
「えっとあなたは?」
「私の名はエルシー。アマ様によって神になったものです。その剣を通し彼が転生の道を歩める時を待っていました」
「…あのゾンビはアドリーさんですね?」
「そう。彼は死ぬまでここにある聖剣を守りぬきました。彼にはここにある聖剣がすべてでしたから」
「聖剣は5英雄が持って行ったのですか?」
「いえ。目の前にあるのが昔からある聖剣です。ここはあなたの知る世界とは違って、この世界には砕けた剣のかけらはありません。この世界では砕けた剣は他の聖剣に宿り、力を高めました」
「これもその剣のうちの1振ということですね」
「はい。さて、彼も逝きましたし私もそろそろ自分のいるべき場所に戻ります。最後にクレナに一つお願いがあります」
「何でしょう?」
「この剣をあなたが使ってください」
「え?」
「この剣は今のところクレナ以外は使えません。守護者もいなくなりましたし、ここに置いておくよりあなたが持っていてください。彼の想いを無駄にしないためにもお願いします。」
「何故私以外使えないのでしょうか?」
その問いかけに答えはなかった。 アイナが心配そうに見つめてくる。
周りを見回すとエドガーさんたちが剣を抜こうとしているが無駄に終わっている。
私が剣に近づくと剣が光だし、浮いて私の前にきた。 剣の柄を握ると聖剣の情報が入ってきた。
「ほ~。で、それがその聖剣かい」
持ち帰った戦利品のうち『砂浜の砂粒をすべて数えた男が教える無駄のない生き方』の本を鑑定済みの机に置いたガドロフさんが私の報告を聞きながら答える。 ここには私とガドロフさんしかいない。
「その聖剣はそのままクレナが持っているといい」
「いいのですか?」
「聖剣は一度持ち主を決めるとほかのものは使えないからな」
「まぁ私には宝の持ち腐れでしかないのですがね。」
「いつか使えるようになればいいさ」
ガドロフさんは次の怪しいタイトルの本に手を伸ばす。
「で?もう一つの任務はどうだった?」
「1度気絶し、1度気絶しかけました。ただ死にそうだったのは回避できましたよ」
「う~ん。何とも評価しにくい結果だな」
「まぁあの内容でこの結果だったのでよかったのでは?」
「甘やかすのはよくないのだがなぁ」
今回の任務にはもう一つ仕事があった。 それは新米騎士たちの護衛対象となることだった。 戦となれば弱い者も前線にでる。 その者たちをいかに守れるか図るのが目的だった。
「にしてもクレナが旧カルデリナ語を知らなかったとは驚きだな」
「1か月前まではずれの村にいた人なのだから当然でしょう」
「それもそうか」
この国ではカルデリナ語さえ喋れれば第一の始祖神信仰勢力圏では会話が通じる。 学者や貴族でもない限りカルデリナ語以外は自分たちの種族固有の言葉以外は覚える必要がないのである。 はずれの村となればカルデリナ語と種族固有の言葉以外知らない人ばかりである。
さらに私はいくら言葉を習っても覚えられないことが最近分かった。 ゲームでは職業の翻訳家系と通訳者系のレベルを上げることによりわかる言語が増えるシステムだった。 私自身もこの設定が残っているらしく、迷宮攻略で手に入れた経験値で翻訳家Lv1をとったところ旧カルデリナ語が読めるようになった。
「報酬は後日渡すとする。今日はご苦労だった」
ガドロフさんは『猿でもわかる九九と三角関数』という本を読みながら言った。
ガドロフさんに一礼して神殿に戻った。
「クレナさん。その聖剣は彼が5英雄に渡すために守り通したものです。あなたの手に渡ったことにより彼の想いが実りました。ありがとう」
どこからかそう聞こえた気がした。
アマ「つい~にみなさんが待ち望んだ私の妹が登場しました」
エルシー「え?」
アマ「これからも妹のエルシーともどもよろしくお願いします」
エルシー「いつの間に妹になったのですか?」
アマ「エルシーちゃんが…」
この先の会話は神のみぞ知る




