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砂糖細工の船に乗って  作者: 酒田青
第一章 船の人々
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船の人々…植物園・2

 問題の部屋は、階の突き当たりにあった。最上階を貫く何又にも分かれた廊下がこの部屋の前に集まってきているようだった。

 明らかに、大きな部屋だった。三毛は期待で胸がわくわくして、落ち着きなく何度も足踏みをした。松子夫人が両開きの四角いドアを開けた。川のせせらぎの音が聞こえる。

 そこは植物の楽園だった。船の上とは思えない広い温室の一面に緑の絨毯が敷かれていた。天井には大きな硝子の明り取りが取り付けてあって、日差しの強い今は半透明な幕がかかっていたが、気持ちの良い自然光が注ぎ込まれていた。奥には小さな森があって、そこから部屋の手前の壁まで続く小川に覆い被さっていた。小さな白い野草から、ピンク色の野ばらまで、様々な花が咲き乱れていた。三毛は一目でここが気に入った。久しぶりの白と青以外の色。海と空と雲と船がなす風景は、もううんざりだった。

 三毛は鼻を草に押し付けた。涼しげな香りがした。 弱々しく伸びたすみれが、仲間同士連帯を組んで咲いていた。

 松子夫人は丸太のベンチに腰をかけ、またレース編みを始めた。三毛は森の奥に向かって走った。

 絹子と繭子はここを知っているだろうか? 野草ばかりだが、花がある。きっと繭子は大喜びするだろう。三毛は草の群れに飛び込み、花の香りをかぎながら歩いた。様々な花の連なりの一番端についた頃、三毛は一瞬新しい土の匂いをかいだ。その時、声を聞いた。

「明日には陸に着くと良いわね」

「ええ、そうね」

 繭子と絹子の声だった。三毛が教えてやるまでもなく、二人はここを知っていた。当然のことだ。姉妹は三毛より遥か昔からこの船に住んでいる。

「やはり、あまり美味しくないわね」

 絹子が言う。

「野花なんてそんなものだわ。ああまずい。これならお茶だけの方がいいんじゃないかしら」

 三毛は草の陰から姉妹を見た。二人は植物園の百合を食べていた。その姿に、三毛は怖気がした。


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