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砂糖細工の船に乗って  作者: 酒田青
第一章 船の人々
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船の人々…植物園・1

 砂糖菓子ホテルの廊下は迷路のように入り組んでいる。

 松子夫人の部屋の丸い広間から延びる、天井の低い通路のドアを開けて狭い廊下に出ると、右手は手前に、左手は向かいに向かってカーブを描いている。ホテルの廊下は四方八方に延び、曲がり、別れ、その壁の所々にてんで勝手な形のドアがついている。その中には似たような間取りの部屋があり、客が泊まっていたりいなかったりする。

 夕方、曲がりくねった廊下の真っ白な絨毯の流れを少しも乱さずにきびきびと歩く松子夫人について歩いていくと、その微かな足音を聞き付けた人々が時々ドアを開いて三毛を見る。青い目、茶色い目、黒い目、灰色の目。彼らの中には三毛を陰気に見つめてすぐにピシャリとドアを閉じる者もいれば、三毛に笑いかける者もいる。だが、松子夫人には目もくれない。松子夫人もそうだ。松子夫人は「外国人は苦手なの」と言うが、彼女は外国人どころか誰とも交流しない。三毛だけである。それは他の人々も同じだ。部屋から一歩も出てこない者は少なくない。ここでは、全ての人が孤立している。三毛だけが、何人かと付き合いを持っている。

 三毛は、夫人が何処へ行こうとしているのか知らない。二又の廊下を右に曲がり、くねくねと進む。綺麗な半円を描く突き当たりを左に逸れ、三つのドアを通り過ぎる。これは松子夫人の部屋からロビーに出るまでの道のりである。三毛も何度も行き来している。廊下が広くなる。すると、吹き抜けになった広いロビーが見えてきた。

 三毛はすぐに回廊を抜けて階段に向かった。松子夫人が後ろからやって来る。下に降りようとしたら、松子夫人が上に上がろうとしているのに気付いて慌てて方向転換した。

「今日は植物園に行きましょうね。三毛は行ったことがある?」

 松子夫人の横顔がそう言った。三毛は無い、と答えるしかない。でも、口が利けないから黙っている。ドアだらけのこの船では、誰かの手助けがないと三毛は自由に行き来出来ない。三毛は色んな所に行ったことがないし、今まで誰も三毛を植物園に連れていってくれなかった。

「今日みたいな憂鬱な日は、ああいうところでぼんやり過ごすのが一番よ。今日は暑いから、避暑地としてもいいのよ」

 それは素敵だ。三毛は飛びはねるような歩きを更に加速させて、松子夫人に追い付いてから横にぴったり体を寄せた。

「水が流れてるから涼しいよ」

 松子夫人も楽しそうだ。

 松子夫人は長い長い、いくつもの踊り場がある階段を、息を切らして上りきると、最上階の回廊を囲む五本の道から一つを選んで、二階と同じようなくねくねとした廊下を歩いた。三毛はドアのない所は大抵行きつくしていたから戸惑いはしなかった。この階には気になる部屋が一つだけあった。多分あの部屋だ。


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