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砂糖細工の船に乗って  作者: 酒田青
第二章 子供
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子供…ロビー・9

 三毛は絹に滑るようにして繭子の膝を降りた。繭子の手が、びくりと震えた。

「三毛!」

「どうしたのよ、繭子さん」

「三毛が」

「あら、どこかへ行きたいのね。行かせてやればいいじゃない」

「嫌よ。三毛」

 繭子は立ち上がり、三毛を追い掛けようとする。三毛の足が速まる。繭子は二、三歩歩き、傷付いた顔でまた椅子に戻った。

「どこに行くのかしら」

 ほとんど泣きそうな声だ。

「さあ。言ったでしょう。三毛にはたくさん飼い主がいるって」

 絹子はため息をつく。興味が無いのか、繭子に説教をしているのか、それは分からない。繭子はうるんだ大きな瞳で絹子に懇願するように言う。

「そんなこと言わないで、絹子さん」

「あなたももう悟るべきだわ」

「三毛は私の猫だもの」

「そうね」

「他に飼い主がいるわけないわ。私を置いて、よその人のところに行くなんて」

「それはどうかしら」

「絹子さん、あなた三毛が可愛くないの? あなた、この間までは三毛を可愛がっていたじゃない」

 繭子が涙ぐむ。

「三毛に飽きたの?」

「そうかもしれない」

 絹子の煙管が、曇ったような光を反射する。繭子は絹子を睨みつけている。

「残酷だわ」

「そうかしら」

「そうよ」

「何故?」

「あんなに弱い子をないがしろにするからよ。残酷よ」

「あなたが可愛がってるからいいじゃない」

「そういう問題じゃないわ」

 絹子はふう、とわざとらしい溜め息をつく。白い煙と焼けた草の香りが辺りに漂う。

「あなたが男の方に飽きるのと、どういう違いがあるのかしら。人殺しのくせに」


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