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砂糖細工の船に乗って  作者: 酒田青
第二章 子供
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子供…ロビー・8

「私がどうしてそんな真似をしなければいけないの」

 フッと息をもらす。

「まあ、そうね」

 繭子はあっさりと納得した。膝の上の三毛は不機嫌に寝転び、首を小さな柔らかい前足に載せた。

 姉妹の感性は理解不能だ。

「それで、絹子さん。あなたあの子とお友達になりたいの?」

 繭子は花びらに手を伸ばす。

「ええ」

 絹子は当然よ、と言わんばかりに微笑む。

「言葉が通じないじゃない」

「気にしないわ」

 繭子は呆れて黙りこんでしまった。三毛を撫でる手が力強くなる。

「それにしても……」

「何? 繭子さん」

「あなたが他人に興味を示すなんて初めてのことね」

 絹子は謎めいた微笑みを浮かべる。

 三毛はまたもや同じ心理作用を目撃した驚きに、思わず上半身を上げた。少年は、やはり何か特別なのだろうか。不思議な魔力を持っているのか。

 立ち上がった途端、繭子のドレスの絹に、つるりと足を滑らせ、再びうつ伏せる格好になってしまった。繭子がそれを見てクスクス笑う。三毛が見えない絹子は少し目を見開く。こういう顔をしたときだけ、絹子は幼く見える。

「いえ、三毛が転んだの。それが可愛くって」

 繭子が無邪気に声を出して笑う。絹子は何だ、と顔を元に戻す。

「三毛は可愛いわよね、繭子さん」

 絹子が黒々とした睫毛を伏せる。

「ええ、もちろんよ。世界じゅうのどんなものより可愛いわ」

 三毛はどんな賛辞も喜ばない。いつものように瞬いて、丸い、真っ黒な瞳をちらつかせる。繭子は仔猫特有の柔らかな三毛の白い、薄茶色の、黄色い毛を触れるか触れないかの間隔で撫でる。気持がいい。

「私は三毛よりもあの子の方が可愛いと思い始めたの。そういうことよ」

 三毛は目を伏せる。三毛と少年にはこういう視線がまとわりつく。いつまでも、いつまでも。

 少年はこの船に乗ったことで大人になるのを止めてしまった。だから、永遠だ。視線が、いつまでも絡み付いてくる。

 三毛は毛嫌いしている。こういう視線を。どんなに優しくしてくれても、わずかに混じる軽々しい好奇心。三毛は逃れられない。少年もだ。

 三毛は思う。三毛が少年に不思議な共鳴を感じているのは、そんな仲間意識があるからだろうか。いや、もしかすると、三毛も船の人々と同じ態度で、少年を見ているのかもしれない。

 苦しい。完全に対等な関係とは、一体どこに行けば得られるものなんだろう?


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