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砂糖細工の船に乗って  作者: 酒田青
第二章 子供
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子供…ロビー・6

「彼は重い病気なんですよ。興奮させるのは良くないから、部屋に連れていきたいのですが」

 老人の満面の笑みは人々の間を虚しく通り抜けていった。誰も目を合わせず、気まずそうに身じろぎした。

 絹子は露骨だった。手近な椅子にどさりと座り込み、薄物の水色のドレスの裾をさばいて足を組んだ。我関せずといった顔だ。

 繭子もそれに倣ってテーブルの向かい合せの椅子に身を沈めた。三毛を抱いて。三毛は二人に怒りを覚えた。

 老人は、優しく微笑んで、それでは皆さん良いお昼を、と、暴れている少年を抱いて階段を辛抱強く上っていった。見えなくなった辺りで、少年のキーの高い怒号がロビーへと降りてきた。

 ロビーの人々はしらけたように、あるいはビクビクと、各々の居るべき場所へと戻っていった。

 絹子と繭子はもう全て忘れた様子で談笑を始めた。

 少年の人気は、わずか二日で地に落ちたというわけだ。

 三毛は力なく三階の少年の部屋の方を眺めた。そして、船の人々の弱さと身勝手さを思った。

 どうせ彼らは少年をおもちゃにするつもりだったのだ。かえって良かったのかもしれない。

 三毛は寂しくなったロビーで、絹子と繭子と共にいた。

「予想外だったわね」

 繭子は三毛を撫で、身をよじる三毛の額にキスをする。

「全くだわ」

 三毛の馴染みの人々が、ロビーを取り囲む何層もの回廊からちらりちらりとこちらを除き見る。

「ろくなしつけを受けなかったのね」

 と繭子。

「それはここに来たときの格好や振る舞いを見ても分かることだわ」

 と絹子。

「あの子、どこから来たのかしら」

「聞いたことのない言葉を話すわね。多分南の方だわ」

「どうして分かるの」

「何と無くだわ」

 繭子は無言で三毛を撫でる。

 三毛はまだ少し怒っている。二人の先ほどの振る舞いに対して。少年が現れる前後から、多くの人の新しい一面を垣間見た。この二人はその中でも最も不快な姿を三毛に晒している。

「私、あの子が気に入ったわ」

 絹子が瓶のコルク栓を指でもてあそび、一枚の赤い花びらをくわえて笑った。

 繭子の三毛を撫でる手が止まった。三毛の中で渦巻く感情も真っ白になった。


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