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砂糖細工の船に乗って  作者: 酒田青
第一章 船の人々
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船の人々…二〇四七号室・1

 純白のホテルの入り口には一切の飾りがない。そこには女神の彫像や、獅子の銅像はない。ただ巨大な白い柱が、正面入り口を守る屋根をがっしりと支えているのみである。

 三毛が屋根の下のねずみ色の陰に駆け込むと、その目の前には透明で大きな壁があった。入り口の硝子戸だ。やけに大きく、人間が二十人並んで中へ入ろうとしても余裕がありそうである。硝子戸は分厚く、高さも尋常ではない。遥か上まで硝子の光の反射は続いている。一体、この巨大な硝子戸は何の為に作られたのか?

「三毛! あんた誰かがドアを開けるのをずっと待ってたの? 早く入りなさい」

 上から聞こえてきたのは優しげな声。三毛はこの人に会いに来た。藤色の、小花の散った年相応のワンピースに身を包んだ松子夫人は、硝子戸に少し体重をかけて三毛のためのすきまを作ってくれた。三毛は跳ねるように走って中に入る。ついでに、後ろに踏ん張った松子夫人の足の、かさついたくるぶしに頭を擦りつける。

 松子夫人が開いたのは、巨大な分厚い硝子戸をくりぬいて作られた、普通の人間相応の大きさの硝子戸だ。大きな硝子戸は滅多に使われない。ホテルに住む人々は、自分でこの硝子戸を開け、ホテルを出入りする。

 ボーイがいないのだ。

 ボーイどころか、このホテルには従業員が一人もいない。少なくとも三毛は見たことがない。しかし、ホテルの手入れは行き届いている。いつも清潔で、相も変わらず純白の廊下、純白の壁を維持している。客室もいつの間にか綺麗に整えられている。三毛には何か乗客以外の存在がいるのは分かっている。気配がするのだ。しかし、それが何なのかは分からない。

「暑かったでしょう、三毛! こんな日射しの中外に出るなんて、馬鹿ねえ!」

 松子婦人は三毛を抱き上げる。白いロビーに整然と広がるソファとテーブルの群れの一番奥に、古い布張りの本と途中で放り出されたレース編みが載った古びた小テーブルがあった。松子夫人はそこから三毛を見付けたのだ。よほど三毛を待ちかねていたのだろう。

「私と一緒にいなさいね。外は暑いから」

 三毛を先導しながら歩く松子夫人が微笑む。ロビーは静寂に包まれていた。

 三毛は松子夫人に従って、ロビー奥の彼女が座っていた席へと向かった。


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