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砂糖細工の船に乗って  作者: 酒田青
第二章 子供
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子供…甲板・8

 乗客たちは彼のこの格好を怪訝な目で見ない。もはやこのスーツは彼のシンボルだ。彼を好ましく思う者にとっては、むしろ老人の愉快な一部分である。

 そんな奇妙な老人が三毛を誘っている。

 もちろん彼の服が意味するところは知らないが、彼自身の怪しさには後退りせざるを得ない。

 他の乗客たちとは明らかに違う態度、大きな声、強気の主張。松子夫人と同伴で数回会ったことがあるが、変な人だな、と思っていたのだ。

 困ったな。三毛は思った。どうしよう。

 だが、老人はそんな三毛の迷いなどお構いなしだった。

「さあ行こうか」

 と、ひょいと三毛の首根っこをつまむと、曲げた腕の中にすっぽりと入れてしまった。

 三毛はそのまま老人に連れ去られた。

 ホテルに入ると、まばらだが数人の客が残っていた。そのほとんどが老人の知り合いらしく、一人ずつ、歩み寄ってそれぞれの言語で話し掛けた。老人はニコニコと、相手と同じ言語で答えた。

「子供でしたね、驚きましたよ」

 一人の内気そうな栗毛の青年が小さな声で言った。老人は大いに嬉しそうな顔をした。

「そうだね。この船で子供を見たのは初めてだ。嬉しいことだ。この間は珍しくこの子がやって来たし」

 と腕の中でポカンとしている三毛を見せて、

「可愛いお客が多いね。幸せだ」

 と笑った。

 しかし、青年は顔を曇らせる。

「それほど、陸の不幸が増えたのでしょう。子供や猫が船を必要とするほどに。この船に乗る人々は皆不幸な人ばかりですから」

 船の不幸について語る人は自分の不幸を語ろうとしない。三毛はそのことに気付いていた。

 全ての人々は子猫の三毛にさえ打ち明けられない。

 でも、三毛はその訳が分かる。三毛も、陸での不幸を思い出したくない。

「何を言ってるんだ」

 老人は大きな声で、驚いたような声を出した。

「ここは幸せの船だよ。幸せな人が乗れる、幸運の船だ。君はそんなことを思っていたのか」

 青年が溜め息をつく。

「そこだけはいつも意見が合いませんよね、僕たちは。僕はあなたのようには考えられませんよ。人々をご覧なさい」

 老人は口髭をもぐもぐ動かす。

「そうかね。私にとっては幸せの白い船だよ」

 老人は断言した。


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