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砂糖細工の船に乗って  作者: 酒田青
第二章 子供
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子供…甲板・7

 ホテルの入り口で、松子夫人は老人に話しかけた。

「この子を部屋に案内してあげてきます」

 笑顔の日本語。だけど老人には通じた。

「良かった、マツコ。あなたが珍しく新しい仲間に親切心を起こしている。

 私のやることはまた良い効果を挙げなかった。残念だ」

 カタコトの日本語。松子夫人は伏し目がちになる。

「だって、子供ですから……。それに、この子には英語が通じないんだわ。仕方がないですわよ」

 老人は松子夫人に笑いかけ、少年に別れの手振りを見せた。少年は胡散臭そうに老人を見ながら、砂糖菓子ホテルの中に消えていった。

 人々は少し興奮した様子で、一人一人ホテルに入っていった。

 入り口近くにいた、両手一杯に花束を抱えた絹子と繭子は、

「子供だわ……」

「そうね。驚いたわ」

 と囁きあいながら中に消えた。

 三毛と老人だけが外に残った。

 

「お久しぶり、三毛!」

 白い船に猫形に浮かぶ三毛を見つけた老人は、早速あの大砲のような声で声をかけた。三毛はキョトンと老人を見る。

「取り残されてしまったね」

 老人は声のトーンを落として優しく笑った。

「なあ、私の部屋に来ないか。マツコがいない隙に、君と仲良しになっておこう」

 三毛はまたしてもキョトンとしていた。

 老人は背筋が伸びていて、背が高い。年齢は乗客の誰にも分からない。だが相当な年齢であることは、その顔の皺が物語っていた。

 その皺のせいで、老人は人種すら分からなかった。とがった高い鼻梁は北の大陸を表しているように見えるが、浅黒い肌は南の大陸のもののようでもあった。あとの部分は全て、白い髭に隠されて見えなかった。

 その上老人はありとあらゆる言語を操った。そのことは老人をますます正体不明の人間にした。

 老人は他人に対して尋常ならざる興味を抱き、その人物に対してありとあらゆる質問をするが、自分については一切語らなかった。謎の人物だった。

 その謎の人物は今、結婚式用の白いスーツを着ている。ツヤツヤと光る白い布地の上着とズボン、細かい刺繍の入った白いシャツ、蝶ネクタイ。白い革靴が歩く度にカツカツとなった。


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