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砂糖細工の船に乗って  作者: 酒田青
第二章 子供
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子供…甲板・5

 突然、三毛は違和感を覚えた。

 一瞬、音がいびつにつながったような気がした。

 空気が違う。さっきまで吸っていた空気と、今吸い込んだ空気は違う。

 三毛は目だけをキョロキョロと動かした。心臓が激しく鼓動する。

 松子夫人を見る。さっきと同じ場所にいる。それでも妙な感覚が消えない。

「良かったわ。こんなに買えた」

「すぐ砂糖漬けにしましょう」

 背後から聞こえる姉妹の声。

 振り返るとホテルに入ろうとする絹子と繭子が見えた。腕には薔薇を主とした艶やかな巨大な花束を抱えている。さっきはあそこから出てきたばかりだったはずなのに。

 三毛は異次元に迷い込んでしまったように、何も考えられなくなった。

 また松子夫人を見る。彼女は何かを凝視している。

 三毛もその方向を見る。広い甲板の中央。青白い人々は動きを停止している。

 黒い子供がいた。

 呆然と立ち尽くし、砂糖菓子ホテルを見つめていた。

 小さな右手には、銀に光る三〇八二号室の鍵を握り締めて。

 子供はよれよれのオレンジ色のTシャツとハーフパンツを着ていた。年の頃は十歳くらいか。

 褐色の細い腕をだらりと下げ、丸い目と丸い唇を驚愕の形に開いていた。

 三毛は思い出した。自分が船に乗った日のことを。

 あの日、三毛は気付いたらあの場所にいたのだった。少年同様、時代がかった格好の大勢の人々に取り囲まれていた。

 余りに昔のことだから忘れていた。三毛は五年以上、子猫のままこの船にいた。

 三毛は少年が無意識に握り締めている銀の鍵を見た。三毛はあれを持っていただろうか?

 今は持っていない。記憶が怪しい。

 三毛が思案に暮れていると、少年は突然動き出した。

 人々を押し退け、船の手摺に駆け寄る。遥か下の海を見て唖然とする。

 次に、少し離れたところにいる松子夫人と三毛を見る。眉を寄せて、不可解な顔をする。

 徐々に見えなくなる島影を目で追う。船は陸に着くこともなく離れていく。少年は手摺にへたりこむ。

 船上に立つ人々は、固唾を飲んで彼の行動を見守る。三毛も見る。松子夫人も見る。ホテルの入り口では、姉妹が珍しそうに立ち止まっている。


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