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砂糖細工の船に乗って  作者: 酒田青
第二章 子供
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子供…甲板・4

 太陽は既に、太陽としての定位置についていた。雲はない。

 さっきまで浴びていた、朝の空気の冷たさと日射しの熱さに、三毛は再び混乱しそうになる。穏やかな波の揺れ打つ音が、この場所の遥か下、遥か遠くから聞こえる。

 この白い船は至って単純な外観だ。無地の船体、船の後部にいびつにそびえ立つ砂糖菓子ホテル、前方に伸びる、何もない甲板。

 その何もない場所にいる人々は何をするでもなく、伏し目がちにうろついている。皆やけに青白い。

 三毛は松子夫人に従って、砂糖菓子ホテルの周りを歩く。本当に何もない。ただ白いだけ。

 この船の人々は直射日光と新鮮な空気を好まない。

 だから内部の方が複雑な作りで、外部が過ごしにくいのは、彼らにとってみれば都合がいいし、何の問題もないことではあるのだけれど。

「楽しみだわね、三毛」

 風を受ける彼女の白いスカートの動きにみとれながら、三毛は松子夫人の声を聞く。

「陸に着くわね」

 そうだ、陸にも着く。三毛は海と空の間をじっと見つめる。まだ何も見えない。

 松子夫人はしゃがんで、海を見つめる三毛の顎をくすぐる。三毛は途端に真面目な顔を崩して、松子夫人の手にじゃれつく。松子夫人がクスクス笑う。

 松子夫人がポケットからビスケットを取り出す。三毛はさっき食べた鶏肉のことも忘れてそれに飛び付こうとする。松子夫人は笑い皺を深くして、ビスケットを割る。片方は三毛、片方は松子夫人の口へ。

 そうやって、いつもの二人の遊びを楽しんだ。三毛は子猫だから飽きない。松子夫人は三毛が好きだから飽きない。

 単調な波の音さえも楽しい。

「陸が見えたわ」

 ふいに繭子の弾んだ声が聞こえた。三毛はホテルの灰色の陰の中から入り口を見る。二人の女の細長い後ろ姿。

 それを聞いた松子夫人も、

「あら」

 と呟く。

 三毛は海の彼方を見る。黒い、薄っぺらな物が遠くに見える。あれが陸か。


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