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砂糖細工の船に乗って  作者: 酒田青
第二章 子供
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子供…甲板・3

「三毛、お腹がすいたわ。助けてちょうだい」

 繭子が三毛を抱き締める。知ったことではない。三毛は心の中で叫んで目を閉じる。

「やめなさいよ、繭子さん。三毛にいちいち構うのは」

 絹子が静かに、どこか遠くを見ながら言う。三毛は意外な気持ちで絹子を見る。

「猫の毛が服に付くでしょう。みっともないわ」

 飢えた絹子は本当の姿に限りなく近い絹子だ。三毛はまた目を閉じた。

「そんなのいつものことじゃないの。三毛を抱くなんて」

 繭子が眉をひそめて反論する。

「少し黙ってちょうだい……。私、今本当に花が恋しくて辛いのよ」

 指でテーブルを叩く音。

「私だってそうだわ。辛いときは三毛と一緒にいたいの」

 うろたえた涙声。

「また泣くの?」

「泣いて悪いかしら? ……あ」

 三毛はいたたまれなくなって繭子の手を振りほどいて床に降りた。繭子を見ると、裏切られたとでも言うような顔で三毛を見下ろしている。絹子は冷たい顔でそれを見ている。

 三毛は急いで逃げた。

 走る三毛の背後では、睨み合いの沈黙が続いている。再び三毛は階段に急いだ。

「あら、三毛。今日は賑やかね」

 頭上から、さっきの場面とは異次元にあるような穏やかな声が聞こえた。

 救いの主。松子夫人。

 純白の階段をゆっくりと降りる松子夫人は機嫌良く微笑んでいた。

 三毛は彼女が最下段にたどり着くのを待ちきれずに、二、三段、多少おぼつかない足取りで昇る。松子夫人の笑い声。

「何慌ててるの。私が降りるのを待てばいいのに」

 三毛のいるところまでやっと降りた松子夫人は、三毛を抱き上げ、ロビーに着いてから床にそっと下ろした。

「外に行きましょう。日射しは強いかしらね?」

 当たり前の会話のトーンで足元の子猫に話し掛ける松子夫人は人々の目を引いた。ただでさえ静かなロビーではひどく目立つ。三毛は足早に松子夫人の後を追う。

 三毛の「仲良し」の人々が、少し悲しそうにその光景を見る。

 恐ろしいことに、繭子は凍りつくような目で松子夫人と三毛を交互に見る。絹子は涼しい顔だ。

 様々な視線を浴びながら、三毛は松子夫人と一緒に硝子の壁の外に出た。


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