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砂糖細工の船に乗って  作者: 酒田青
第二章 子供
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子供…甲板・1

 朝日が昇る。くすんだ海の輝きは鋭さを増し、空がみかん色に染まる。

 半分の太陽はおずおずと顔を出し、辺り一体に惜しみない光を降りこぼす。そして、海と空は正しい青さを取り戻す。

 三毛は光の眩しさを真剣な態度で受けとめた。だだっ広い白い巨大な船の甲板の中央で、背筋を伸ばし、瞬きもせずに太陽を見つめた。

 船は白く輝いていた。甘い香りが三毛の鼻孔をくすぐった。

 昨日より新しい日が始まった。

 三毛が驚くような事が起こり始めた。船の中の人々が続々と姿を現し始めたのだ。

 三毛はホテルの入り口にちょこなんと座っていた。誰かが硝子戸を開けたときに中に入らせてもらおうと思って。

 硝子の壁の向こうに見えるロビーでは、陰気な客が一人、二人と姿を現し、とうとう十数人がめいめいにソファに腰を降ろし、歩き回ることになった。

 三毛は一人の小柄な男がこちらにやって来るのに気付いた。男は手を振って三毛に微笑みかける。

 硝子戸がキイ、と押し出された。三毛は中に滑り込む。

 赤ん坊のような顔をした赤ら顔の男は、しゃがみ込んでニコニコと三毛を撫でた。三毛はされるがままになって目を閉じる。

「今日は誰が来るのかね」

 男は独り言のように呟いた。

 三毛は知らない、と心のなかで唱え、今日やってくる新しい乗客について考えた。

 絹子と繭子ではないが、猫なら嬉しい。三毛の乱暴な遊びに付き合ってくれるかもしれない。それなら楽しみだ。

 でも、と三毛は考える。新しい乗客は、きっとこの船の新しい不幸だろう。この船は不幸を乗せて旅をしているのだから。

「じゃあな」

 小さく手を挙げて、男は外に出た。

 硝子ごしに見ても、空も海も綺麗だった。涼しくて爽快な、昨日より新しいが昨日と同じ朝。

 今日が船に何かの変化をもたらすとは思えなかった。

 それなのに船の人々は何かを期待している。

 新しい乗客が、彼らの不幸を取り除いてくれるのではないかとでも思っているかのように。

 三毛はこの不思議な高揚感と、それとは全く逆の無関心の表情の群れを複雑な気持ちで見つめた。


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