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砂糖細工の船に乗って  作者: 酒田青
第一章 船の人々
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船の人々…植物園・6

 松子夫人が溜め息をついた。

「悲しい人ばかりだわ」

 三毛は松子夫人を見た。誰が悲しい人なんだろう?ホテルの自室に籠ったまま出てこない、ひとりぼっちの乗客たち? 人形を作るのをやめられない、松子夫人? おもちゃの運命から逃れられない三毛?

「あの姉妹は可哀想ね」

 三毛は耳を疑う。何故あの姉妹が可哀想だと言えるのか? 貪欲に欲する物を得て、堂々と生きる彼女らが? それに、姉妹はロープで結び付けられているかのようにいつも二人だ。ひとりぼっちではない。

「虚飾なしに生きられない可哀想な姉妹だわ。それに、可哀想な乗客たち。明日やってくる可哀想な新しい乗客。この船は不幸の船だわ。私達は不幸である限り、ここから降りられない」

 夫人はレースの端をいじった。

 姉妹は、不幸なのだろうか。姉妹を除く乗客の不幸は見えやすい。それゆえに分からない。

 松子夫人は? 松子夫人はいつも元気だ。だが、果てのない人形造りに取り憑かれたまま逃れられない。

 三毛は自分について考えた。三毛は少なくともさっきまではこの船の上の生活は安楽そのものだった。陸の上での不幸は払われた。そう思っていた。

 三毛は不幸なのか? 陸の不幸はまだ続いているのか?

 三毛はおもちゃとしての人生を逃れられていないかもしれない。だが、不幸だとは感じていない。自分は何故船に乗っているのか?

 三毛の他の人々は不幸だ。この船が不幸な人々の牢獄と言うのなら、なぜ三毛だけが不幸では無いのだろう。

「三毛。あなたは私の唯一の幸せだわ。ずっと友達でいて」

 松子夫人がそう言って、三毛の頭を撫でた。三毛はまた決着のつかない苦悩に悩むしかなかった。

 一体、なぜここにいるのか?


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