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砂糖細工の船に乗って  作者: 酒田青
第一章 船の人々
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船の人々…植物園・5

 三毛はたくさんのことを考えた。でも、三毛の小さな頭では処理することが出来なかった。

 このままでいいのかもしれない。

 考えがこんがらがった毛糸のようになったとき、全部どうでもよくなって、そう諦めることにした。何だかもやもやした気持ちは残ったが、三毛は松子夫人が一番好きで、それだけははっきりと分かっていたから。

 三毛は複雑な表情で松子夫人の膝に座った。松子夫人を見上げると、三毛の顔と同じくらい複雑な模様に取り組んで、三毛のことが目に入らないほどに集中していた。三毛はそのまま寝転んだ。人工の川の端の水が、どことも知れないところに吸い込まれていくのをじっと見つめた。

「あら、あの姉妹」

 うとうとしていた三毛は、少し不穏な響きを含んだ松子夫人の声で意識を取り戻した。首をもたげて辺りを見回すと、遠い森からゆったりと優雅に歩いてくる絹子と繭子を見つけた。いつもの、空から落ちてくるスカーフのような柔らかな仕草と動作。あの森の出来事が夢に思われた。

「あなたはあの姉妹が好き?」

 松子夫人が疑わしそうに訪ねた。三毛は松子夫人の膝に、ぱふんと頭を落とした。それなりに好きだった。今はあまり好きではない。

「あの人達の主義はあまり好きじゃないわ。花しか食べない。花と触れ合っている空気しか吸わない。誰にでも、自分達の綺麗な部分しか見せない」

 三毛は花を食べる姉妹を優雅で神秘的だと思っていた。今は……。

「そんな人間、なりたたないわ」

 三毛は松子夫人の顔を見上げた。きっぱりとした顔付きだった。視線の先には小川の向こう側に沿って歩く姉妹がいる。

 繭子がこちらに気付いた。少し冷えた笑顔で絹子に話しかけた。絹子も見たが、興味もなさそうにまた前を向いてしまった。大方三毛が松子夫人と一緒にいることに、繭子が怒っているのだろう。なにせ、三毛は繭子たちのものらしいから。

 姉妹は、擦りガラスのはまった白い格子の両開きのドアを両側から開けると、女王のような足取りでそこを出ていった。


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