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南嘉手納荘四号棟  作者: Resetter


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2. 佐藤の聞き込み



 帰社してすぐ。

 気分転換に、喫煙所へ行くと。


「あら、リッセー。お疲れ様」


「お? 佐藤さん。おつかれっす」


 リッセーも来ていた。


「さっきはありがとねぇ」


 腰を下ろしながら、お礼を伝えた。


「ん? あー。全然いいよー。同じ社畜仲間だろー? 助け合わないとねー。理不尽は嫌っしょー。ハハハ」


「理不尽……。本当にね……」


 四〇二号室の光景が、脳裏によぎった。途端に、気温が下がったように感じる。つい、自分の肩を抱いた。



「んー? その顔、またなんかあった?」


「……え? ああ……」


「なになに? 歯切れ悪いなぁー。今は二人きりなんだし、素直に吐いちゃえよー。カツ丼食うかぁ?」


 そう言って、リッセーはライトを向ける真似をした。


「あはは。リッセーったら。……戸田がらみよ」


「あー……。まーた面倒なやつ?」


「……小野君の件よ」


「あー。小野かぁ……。無断欠勤は、初めてだよなぁー」

 

「部屋に行ってきたんだけどね……。小野君だけが忽然と消えてるって感じなのよ……」


「ほぉん……。なるほどねー……」


「なるほどって、なんか分かったの?」


「いや? これから聞き込みなんだろうなーってことだけ、ね。ハハッ」


 リッセーが、ケラケラと笑った。


「あらそう……」


「うん。で、オレからの情報としては……まぁ、社員の共通認識だけどさ。小野は、女癖が悪い。金遣いも荒い。でも、仕事はそこそこする、ってことだなー」


「そうね。それは有名よねぇ」


「仮に失踪だとして。もし、外的な何か……なら、女絡みか、金絡み、だろうね」


「外的って……」


 拉致……とか……?


「……あ、そうだ。白峰(しらみね)専務の後輩だっけ、小野」


「ああ、そうね。そういう経緯の入社だったわね」


あの人(白峰専務)、反社っぽいのと付き合いあるよなー」


「え?! そうなの?!」


「まぁ、半グレだろうけどねー」


「そうなんだ……」


 確かに、そんな噂を聞いたことはあったけど。火のないところになんとやら、ね……。


「じゃあ、オレ戻るわー。あんま()()したらダメよん。損切りライン間違えたら、人生終わるからねー。深入りNGだぜー」


「あ、うん……」


 リッセーは、後ろ手にひらひらと手を振った。

 そして階段に消えていった。

 

 さて……。



 ▽



 まずは、営業部所属、炭田(すみだ)結依(ゆい)に当たることにした。

 歩くスピーカーと言われる、承認欲求と自意識の塊。社歴三年の四十歳。更に他責思考という、多属性持ちね。


「佐藤さぁん。どしたのぉ?」


「小野君のことでね……」


「あー! あいつ、今日いないのよね! おかげで負担が増えてさぁー! 本当、勘弁してよねーって感じ!」


 平成ギャルのような話し方だけど、見た目は完全に年相応。社内の評判は……芳しくないわね。


「ま、まぁ、そうよね。急だとねぇ。なにか、兆候でもあればねぇ。予測も出来たかもだけどねぇ……」


「はぁー? そぉんな都合よくいくわけないでしょおー? 全く……あのクズ」


「なに? そんなに嫌いなの?」


「嫌いっていうかぁ……」


 炭田が、くねくねと身体を揺らす。

 こういうところが、嫌厭(けんえん)される原因なんでしょうけど。本人は、気付かないんでしょうね。


「あいつさぁ、アタシのこと口説いてきたクセにぃ……若い子に手ぇだしてるからさぁー。猿すぎでしょってぇー」


「えっ?! そうなの?!」


 いくら小野でも、既婚の子持ち女を口説く……なんて、ないでしょ。

 でも、若い子を……というのは、かなり信憑性(しんぴょうせい)が高いわね。


「本当よぉー! 石田(いしだ)さんとか、堂家(どうけ)さんとか、怪しいもん」


「あの二人が……?」


「そうそう。寮住みの子が、見たって言ってたし。小野が連れ込んでるところ……」


 また噂程度ね……。


「そう。で、炭田さんは、いつ口説かれたの?」


「えっ? アタシは、ひと月前くらいかな?」


「どんな風に?」


「えぇー? そこ聞いちゃうー?」


 炭田は、右人差し指を頬に当てた。

 中年女の"萌えアクション"は、かなりの破壊力がある。……悪い意味で。鳥肌が立ってきた。

 

「小野がさぁ、ひと月くらい前に飲み会やろーって誘ってきたのよね。それで小野の部屋に集まってさぁ。その時かなー」


「飲み会してたの? あの部屋で?」


「え? そうだけど?」


「異常とか、なかった?」


「んー? もしかしてぇ……噂の話ぃ?」


 炭田が、にやっと笑った。


「それがさぁ、噂に聞いてたみたいなのは、なかったんだけどー。……妙にムラッとはしたかなぁ? すっごい見られてるーって感じでー。だからちょーっと危なかったっていうかぁー」


「えっ……まさか」


「あはは! そんなわけないっしょー! やめてよもー!」


 炭田が、肩をバシバシ叩いてくる。なんでおばちゃんは叩くのかしらね。



「飲み会って、誰がいたの?」


「ん? 石田さんも、堂家さんもいたよー。あー、あと白峰専務も友達連れて、途中から来たかな?」


「友達? 外部の人?」


「そうねー。車屋さん? とか言ってたかな? でも、他にも何人かいたかも」


「車屋さん? ブレイブ?」


「あー! それそれ! そんな名前」


 それは、社用車の半数を管理している会社の名前だった。


「あっヤバ! アタシいくねー」


 腕時計を見た炭田は、パタパタと戻っていった。



 ――飲み会……。外部の人間も呼んで……ね。

 

 白峰専務と小野は、プライベートな付き合いが元々あったみたいだし、そこまで不自然な話ではない、か。

 車屋の件も、白峰専務がねじ込んだ話らしいわね。


 ――ブレイブ、か。気になるわね。


 次は……。



 ▽



 製造部在籍、堂家(どうけ)美弥(みや)。二十二歳。専門卒、在籍二年。

 色白で、紫に髪を染め、少し、ふくよかな体型をしている。

 

 勤務態度は、比較的に真面目。

 でも、営業部への転属願いを出して、却下された時は、少し休みがちだったわね。

 ……炭田が、鬼首祭りになってたわね……あの時は。


「佐藤さん、話ってなんですか?」


「……小野君のことなんだけどね」


「あー。今日来てないらしいですね」


 そう言って、堂家は、ふいっと目を逸らした。



「そうなのよ。来てないというか、いないのよね。……何か、知らない?」


「え? 何かって、なんですか?」


 堂家は、バッと顔を上げた。

 さっきからずっと、挙動が変ね。焦っているのかしら。

 ……何か、ありそうね。



「……部屋飲み会するくらいには仲いいんだよね? 小野君と」


「いや、あの、え? その話、知ってるんですね……」


「炭田さんが言ってたからねぇ」


「ああ、もう! あの人……!」


 堂家は、眉尻を吊り上げ、拳を握った。



「何かあったの?」


「いや、んー。えっと、なんて言うか、あの日は途中から無茶苦茶な感じになって……。私、先に帰ったんですよね」


「無茶苦茶?」


「そう……なんです。白峰専務が、友達を連れてきちゃって……。イッキコールとか、激しくて。で、飲み会のことは、誰にも言うなって、専務が……」


「どういうこと?」


「だから、これ以上……話せません」


 堂家は、俯き、黙った。小刻みに震えて、顔色が髪色に近くなっていた。


「ねぇ、そういえば、あの部屋、何か変じゃなかった? 音が――」


「な、何言ってるんですか! やめてくださいよ!」


 バッと青い顔を上げた堂家は、声が裏返っていた。

 そして、耳を塞ぎながら、わあっと声を上げ……走って行ってしまった。


 振り乱した紫の髪が、妙に……不気味に映った。


 やっぱり、あの部屋……。


 

 ▽



 資材課、石田(いしだ)奈々子(ななこ)。二十二歳。専門卒、二年目。堂家と同級生ということだ。

 色白で、ピンクのインナーカラーを入れた、小柄で華奢なタイプ。

 

 大人しそうな顔つきだけど、意外とよく喋る。

 男子社員からの人気は高め、かしらね。


「佐藤さん、話ってなんですか?」


「石田ちゃん、小野君と仲良かったでしょ?」


「……普通ですけど」


「そうなの? 部屋飲み会するぐらい、仲がいいんじゃないの?」


「……知ってるんですね」


「それに、遊びに行ったりもしてるんでしょ?」


「……え? なんの話ですか?」


「石田ちゃんが、小野くんの部屋に行くのを見たって話、聞いたから」


「……噂ですよ、ただの」


 キッと、睨むような目付きだった。……誤魔化したいことが、あるのかしらね。


「……そう。小野君、来てないでしょ? 何か連絡とか、なかった?」


「なんで……私に?」


「よく二人で話してたでしょ? それは私もよく見る光景だったわよ?」


「別に……そんなこと、ないですよ……。よく話す……なら、織瀬主任とも話してますから!」


「そうなの?」


 リッセーね……。

 確かに、彼とはよく話している社員、多いわねぇ……。私もそうだし。


「他にも、たくさん話す人くらい、いますから!」


 赤い顔……。ずいぶんむきになって……。


「そっか……。石田ちゃん、白峰専務とは親しいの?」


「……えっ? 専務? そんな、全然立場が違うじゃないですか……」


 きらりと、汗が光った。


「でも、飲み会に来たんだよね? 専務」


「そう、ですけど……。それは、小野さんが親しいから……」


 石田ちゃんは、目を伏せた。

 

 ……白峰か。

 ここは中小企業だ。上下の距離は近い。殆どの社員が、一度は話したことがあるはず。

 

 私も、時々話しかけられる。

 でも。

 本人は、朗らかに話しているつもりなんでしょうけど、目の奥が濁っていて、どうも好きになれない。


「……そう。白峰専務の友人って、どんな人たちだった?」


「えっと……あ。たまに会社にも来る、車屋さんですよ」


「篠原さんだけじゃないよね? 何人かいたんでしょ?」


「そう……ですけど。自己紹介してもらったわけじゃないんで。……あの。もういいですか?」


 石田ちゃんは、眉間を寄せていた。


「私、忙しいので」


 そして、くるりと背を向け、早足で戻っていった。

 

 あの子……何か、怪しいわね。

 でも、普通に聞いても……無駄、なんでしょうね。


 トットッと足音を立てる小さな背中を見送りながら、あの扉を思い出していた。

 


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― 新着の感想 ―
xからきました。 いわく付き物件……不穏すぎますね。 小野は一体どこに消えたのか
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