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009.宴の後で


 翌朝、ひどい頭痛とともに一階の食堂へ降りると、見知らぬ男たちから次々と声を掛けられた。


「ようお嬢ちゃん、昨日は御馳走さんだったな!」


「おっ、昨日の姉ちゃんだ、また今度、宴を開いてくれよなー」


「次は俺がおごってやるぜ、まあ金があればだがな!」


 私は引きつった笑いを浮かべ、会釈を返すのが精一杯だった。 そんな私に、愛犬(レイ)は心配そうな視線を向けている。


「わぅーん、わん(妹ちゃん、自業自得だけど、次はお姉ちゃんがちゃんと止めてあげるから)」


 その言葉に泣けてくる。 私は逃げるように朝食を済ませると、ディナたちと別れて自室へと戻った。


 ベッドに倒れ込み、鼻を打ち付け悶えた後、Waooon Shopping の画面を開く。


 昨夜の乱心によりかなりの額を浪費してしまったとはいえ、残高は二百万ダルを超えているし、まだ焦ることはないだろうとは思っている。だが、この先何があるか分からないのだ。 早めに確固たる資金を確保しておきたい。


 そう考えながら、生活環境の改善と、新たな商売の種を探し始めた。


「まずはこれかな。 レイ、これで水浴びの後も楽になるよ」


 画面に表示されたのは「ペットドライヤー / スタンド付ハンズフリー」だ。 お値段はなんと18,800ダルというお手頃価格。 この形なら私も使えるだろう、 そう思って購入を決めた。


 残念ながら新たなクーポンの通知は届いていなかったが、最後の一枚を使用する。 50%OFFだがいつものように上限5,000ダルであるため、購入価格は13,800ダルとなった。


 問題は電気が無いのに使えるのか? という点だが、売っているのだから使えるのだろう。 そう思いながらカートに入れる。 使えなければ電気を開発したら解決だし。 と絶対に無理だと思える解決策を脳内で展開する私。


 注文を確定し保管ボックスから取り出すと、目の前に写真通りの白く輝く無骨なデザインのそれが現れた。 電源コードが見当たらないそれの説明書を確認する。 どうやらこの世界の法則に合わせ、魔石で動く魔導具へと変質していた。


「へぇ、ここに魔石を入れるのね。 これならどこでも使えるし便利かな? 問題は魔石だけど……売りつける時にギルドで買えるかな?」


 そんなことを言いながら、販売用に3つ追加購入した。 あまり数があってもプレミア感が出ないし、100万……いや、200万ぐらいで売れたら、三つで600万ダル……これで暫くはダラダラとした生活を送れる。


 そんなことを考え脳内を緩ませる。


 ならば環境を変えねばっ! そう考えさらなるアイテムを探す。


「これだっ!」


 楽しくなってきた私は、「ペット用クッションマット」を即買いする。


 防水・撥水加工で滑り止め付き、厚さ三センチの超厚手仕様で、150センチ×250センチの特大サイズ。 お値段は24,800ダル。 硬いベッドに苦しんでいた私は、これを床に敷いて、愛犬(レイ)と共に快適な眠りを得るのだとガッツポーズ。


 愛犬(レイ)と一緒にベッドの上に乗ると、床に目掛けてマットを出す。 ギリギリ収まったそれにダイブする。 そのままゴロゴロすると、気持ちよさに眠くなる。 愛犬(レイ)がその上に乗っかってくるのでさらに眠気が……ハッとして体を起こす。


 愛犬(レイ)の毛並みを堪能しながらも、再度画面に視線を送ると、関連商品として表示された「介護用マットレス」に目が止まった。


「あるじゃん……」


 どうやら介護用にと飼主と一緒にベッドに寝るならこちらといった内容で、ベッドに使うにはちょうど良いサイズのマットレスがあった。


 体圧分散に優れた厚手のマットレスで、サイズは60センチ×180センチ、お値段8,900ダル。 迷わず購入。 布団とシーツを剥ぐと、煎餅仕様の薄いマットレスの上にそれを出す。


「これで完璧だね! 後は……」


 フードボール4色を5つずつ購入。 このデザインなら絶対に売れる! ドライヤーが不発だった場合にはこれで当面の資金は稼げるだろう。 そう考えていた。


 その後、追加でドッグフードを2種類、3袋ずつ購入し、当面の愛犬(レイ)の食料を確保した私。


 残金は 2,207,784ダルと、まだまだ余裕はあることに満足しながら、ベッドにごろりと転がった。


 目を閉じた私は、そのまま夕食まで寝入ることになる。


 虚ろな意識の中、お腹を心地よいリズムでポフポフされてる気がしたが、目を開けることすら億劫になった私。


 そのまま子供になって今は亡き母に寝かしつけられている夢を見た。


 夢だと理解した私は、恥も外聞もなく母に甘え、その膝に顔をぐりぐりと擦り付けるのだった。



◆◇◆◇◆



――― 王都・公爵邸


 王国の三大公爵、その筆頭であるアリストス公爵家の一室。


 窓から差し込む陽光が、豪華なシャンデリアに反射し、室内を眩いばかりに彩っていた。 部屋の主であるクロマティアは、長い金髪を優雅に揺らしながら、目の前の品を眺めていた。


 艶やかな金髪は美しい縦ロールに巻かれている。 纏うドレスは深紫の最高級シルクに、これでもかと金のレースが施され、指先には幾つもの指輪が輝いている。


 彼女は燃えるような輝きを放つ、八つの赤いハートに見惚れていた。


 商業ギルド長である油ギッシュな中年男、モロス=グレゴリが持ち込んだそのネックレスを、細い指先で撫でながら嬉しそうに口を開く。


「やはり正解だったわ」


 今朝、この男から急遽会いたいという連絡がきた。 本当ならそのような急な訪問は許可しないのだが、なんとなく直感が働いた。


 持ち込まれたネックレスは、ガラスなのだと言う。だがこれは宝石と言っても遜色のないものだと、彼女はそう感じていた。


 この男は職権を乱用し、良い品があれば優先的に彼女の元へ持ってくる。 そして、ある程度の金をギルドに入れ、残りを自分の懐に入れ、私腹を肥やしているのだろうと思っていた。


 だが、彼女にとってそんなことは些細な事であった。 自分は治安維持隊ではないのだから、と彼女は冷めた目で男を評価していた。


 彼女はいつものように、単刀直入に価格を提示する。


「これ、本当に一点ものなのね?」


「はい。 昨日入荷したばかりですが、その者からはそう聞いておりますよ、夫人。 それに、このような精巧な物は、滅多にお目にかかれないでしょう? 夫人だからこそ、お持ちしたのです」


 手揉みをしながら、油ギッシュな顔に下卑た笑みを浮かべる男。


「ではこれで、いかがかしら?」


 彼女が合図すると、侍女が重厚なテーブルの上に、白金貨を積み上げた。 白金貨二十枚。 塔のようにそびえ立つ五枚の束が四本、光を反射して白く輝いている。


「さすが夫人! 価値を良く分かっておられる。 これは夫人の首元にあるのが相応しい逸品なのです!」


 ギルド長モロスは、顔をこれ以上ないほど綻ばせ、白金貨を大急ぎで懐へとしまい込んだ。


 20,000,000ダルという値がついたことを、カナは知る由もなかった。


------------------------------------------------------------

010.


 翌朝、すっきりとした目覚め。


 身支度を終えた私は、二度目の商業ギルドへ向かう。


 今回の商材は、先ほど届いたドライヤーと、昨日のクッキーに続いて目をつけたフードボウルだ。


 翌朝、身支度を整えて商業ギルドの重厚な門を潜る。


 ロビーに入った途端、凛とした女性の声が響いた。


「こんにちは、お嬢さん。お待ちしておりましたよ」


 振り返ると、そこには昨日の赤髪の女性、フィルが立っていた。


 彼女は今日も見事な柑子色の和装風ドレスを纏い、隙のない美しさを放っている。


「私はフィルといいます。以前、あなたがギルド長に見送られるのをお見かけして、ぜひお話ししたいと思っていたのです」


 私が首を傾げていると、足元のレイが短く鳴いた。


「わん(二日前、こっちを見ていた女よ)」


 レイの言葉で、私は彼女がただの通りすがりではないことを察した。


 フィルは人当たりの良い笑みを浮かべているが、その瞳の奥には抜け目のない商人の光がある。


「何か面白いものをお持ちのようですね。もしよろしければ、私が先に査定させていただいても?」


 私はちょうど相場を知りたかったこともあり、彼女に商品を見せることにした。


 まず取り出したのは、セラミック製のフードボウルだ。


 フィルはボウルを手に取ると、驚いたように眉を上げた。


「……これは、随分と綺麗で丈夫だ。正直、見たこともない材質だね」


 彼女は隣に控える小柄な従者、レッテに視線を送った。


 レッテは黒い法衣の袖から白い指先を出し、ボウルを軽く叩いて音を確かめる。


「軽い割に非常に硬質です。不純物も一切見られません。共和国産でしょうか?」


 共和国。聞いたこともない地名だが、私は適当に頷いて誤魔化した。


 続いて私は、魔導具化したドライヤーを披露した。


 フィルはドライヤーから吹き出す温風に目を見開いたが、すぐに溜息をついて首を振った。


「とてもじゃないが、私では買い取れないよ。これほど高度な魔導具を即金で買うだけの資金は、今の私にはないからね」


 どうやら、ドライヤーはこの世界では国宝級、あるいはそれに準ずる贅沢品のようだ。


「これもギルド長に見せるのだろう? 構わないよ、まずは彼と交渉しておいで。価格を確認した上で、私とも取引を継続してほしい」


 フィルはそう言って、フードボウルに一石を投じた。


「ボウルの方は、私が一つ金貨十枚で買い取ろう。これなら私の店でも貴族相手に売れる。いくつあるんだい?」


「今、出せるのは二十個あるわ」


「なら、白金貨二枚でどうだい?」


 彼女は事も無げに、二百万ダルを提示した。


 商人の間では白金貨の数で語るのが常識らしい。


「お近づきの印として、それで手を打ちましょう」


 私は四色のフードボウル五セットを彼女に譲り、白金貨二枚を受け取った。


 懐に再び大金が戻ってきたことに安堵しつつ、私は本命であるドライヤーを抱え、ギルド長の執務室へと向かった。


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