004.宿の確保
ご機嫌で鼻歌を歌いだすディナと、物欲しそうなラフリコとクリスの二人。
ひそひそと相談し始めたが、どうやら手持ちの現金がないようだ。 ディナの方も現金が尽きているようで、彼女から借りることも難しいようだ。
そんな話を小耳にはさみつつ、Waooon Shoppingの画面を確認中、左端にある「買い取り」という項目に目が止まった。
試しに、保管ボックスに入っていたレイのエチケットバッグを買い取りに出してみる。 買い取って欲しいと念じると、買い取りについての画面が開く。 そこに提示された買い取り額は390ダルだった。
「これは近所のシママチで特価2,980円で買った奴なんですか? まだ数回しか使ってませんが?」
思わずそう口ずさみ、やや憤慨する。
買い取りをやめ、バッグを保管ボックスに戻したタイミングで、二人から提案があった。
「これを街に戻って納品したらお金が入るし、ギルドに預けてあるお金もあるから、他に何があるか見せて欲しいんだ!」
ラフリコがそう言いながら背負っていた布鞄を開き、その中身、本日の依頼品だという草を見せてくれた。
「ちょっと見せてね」
そう言って試しにその草を「観察」で確認すると、ヒール草375g:回復薬の主原料(5本分) と表示された。 それに合わせ、買い取り価格は 6ダル/g との説明も加えられていた。
三人に冒険者ギルドでの買い取り額を聞くと、10ダル/g 程度らしい。 経理で鍛えた暗算を走らせ、スキルによる買い取りなら375gで2,250ダルだと弾き出した。
まあ元は取れるかな?と考えた私。
「二人は何がほしいの? 探せば色々あるけど……」
「探せば?」
ディナが首を傾げる。
「まあまあ。 色々あってさ、何あったかなって?」
迂闊な発言をそう誤魔化すと、ラフリコが「いや、同じようなアクセサリが欲しいんだよね?」と言いながらモジモジしている。 どうやらクリスも同じようで無言で頷いている。
「どうせ飲み屋の女に貢ぎたいんでしょ?」
呆れた様子のディナの言葉に何となく察する。 ならばとさっきの残り、金色の星と銀の月がついた細いチェーンの首輪を取り出した。 取り出されたそれに、二人と共にディナも大いに食いついた。
「こ、これで二つ交換できるか!」
「そのヒール草、私の分もあるんですけど! それに、私もほしい!」
「ま、街に帰ったらその分もきっちり返すから! な、こんなチャンス滅多にない! この方、収納持ちだし、きっと大商人のお嬢様かなにかだよ!」
「そうだよ! このチャンスを逃したら、二度と買えないかもしれないって、ディナだってわかるだろ? こんな綺麗なネックレス見たことがない! 貴族街の宝石商ならあるかもだけど、僕たちには買える額じゃないよ?」
ディナが騒ぎ出すのを、ラフリコとクリスが必死に宥める。 そんな時間が経過した。
そんな三人を眺めながら、私はもう一つ、さらに豪華な赤い石の嵌められた首輪を購入。 50%OFFのチケットは最大10点まとめ買いで使える限定のものだったようで、すでに無くなっていた。 価格は2,500ダルの先ほどの5つの物より少しだけ高めの物だ。
「まあまあ御三方。 お待ちなさい」
そんな、誰?という口調で言いながら、取り出したそれをディナに差し出す。
「これはディナさんに、お近づきのしるしです」
彼女は興奮した様子でそれを受け取ると、両手で持ちながら天に翳し、踊るようにしてクルクルと回っていた。 そんなにか? と思いながらそれを見る私。
結局、2,250ダル分の草と引き換えに、残りの二つの首輪も二人に渡す。 これで残金は57,204ダルとなった。
「カナさん、あまりに安すぎます!」
そう言ったクリスは、街に戻ったら10,000ダルずつ払うと言う。 ラフリコも同じように払うと言うので、私はそれを承諾した。
「カナお嬢様、この後のご予定は?」
ラフリコが凛々しい顔を作るのを見て、少し格好いいと思ってしまった。 それに対し、ディナが「無駄な顔作ってるな」とあきれ顔だった。
「あのあの、ずっとスルーしてたけど、聞いてもいいですか?」
私に向かい、気まずそうなクリスがそう言うので頷くと、愛犬を指差し話始めた。
「これ……魔物だよね?」
その質問に固まる。 魔物? なんで?
「私の愛犬、レイだけど? 魔物じゃないけど?」
「いや、ごめん! 魔物じゃないのは分かったけど、アイケンってなに? それともレイってのが種族名なの?」
暫しの沈黙。 クリス以外も同様に返答を待っているようだ。
「愛するワンちゃん」
「ワンちゃん?」
「えっ、待って? 犬。 ワンちゃん。 もしかして、見たことない?」
戸惑いながら確認すると、頷く三人を見て、頭を抱える。
「もしかしたらだけど、犬ってこの世界にいないの?」
「この世界?」
ディナにそう言われハッとする。
「ああっと間違えた。 この辺りにはいないのってことで……」
「まあ、少なくとも私は見たことないわ。 イヌっていうの? ワンちゃんっていうの?」
「種別には犬。 でも鳴き声がワンだからワンちゃんとも言うかな? レイは私の相棒なのよ」
この説明で、三人は渋々ながら愛犬の存在を納得してくれた。
「さて、宿に案内してくれるんだよね?」
「そ、そうだったわね! さあ、早く行きましょう!」
そう言うディナを先頭に、先ほどまで大人しくしていた愛犬の頭を撫で回しながら、ゆっくりと三人の後を追った。
街へと戻り、三人が使っている宿へ到着。 木造に朱色の屋根の目立つ建物。 かなり大きな建物だと思った。
両開きの扉を抜け、広いロビーに入る。 それなりに賑わっているようで、左手にある食堂ではすでに大勢の人たちが食事を楽しんでいるようだ。 正面のカウンターでは、割烹着のような服を身にまとった、見た目は中学生ぐらいの可愛い女の子が出迎えてくれた。
そんな彼女は、中紅色の髪を後ろで一つに結んでいる。 清潔そうな白い前掛けを纏い、大きな茶色の瞳を細めて可愛らしく微笑んでいた。
私は保管ボックスから財布を取り出すと、すでにその中の紙幣や硬貨は、この世界の金貨などに換金されていた。 改めて金貨が10,000ダル、銀貨1,000ダル、銅貨100ダル、小銅貨が1ダルという価値を理解した。
「夕食と明日の朝食も付いて8000ダルでーす! どうですかおねーさん……って、魔物はちょっと……」
愛犬を見て戸惑う少女にニッコリ笑みを返し、「従魔なんです」と愛用のピングの首輪を見せつける。
ここに来る前に、三人からこの世界には従魔術というものがあり、魔物を従えることができるそうで、首輪タイプの魔道具で行動を縛る方法もあると言うので、それに乗っかってみた。
ほっと安心した表情を見せた少女に、とりあえず1週間でと部屋を借りた。
7日分で56,000ダル。 残りは21,204ダル。 一週間で何か売れる商品を考えなきゃ。 そう考えつつも、首輪でいいかな? と軽く考えながら、部屋の木札を受け取ると、食堂で初めてのまともな異世界食を待った。
出てきたのはパスタのような麺類と野菜たっぷりのスープ。 それに葉野菜のサラダだった。 塩味ぐらいしか感じないそれらだったが、空腹もあり、それなりに美味しく食べることができた。
しかし、宿のサービスとして提供された葉野菜を、眉間に皺をよせ食べる愛犬を見て、何とかしなきゃと考えた。
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