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010.さらなる商戦


 快適な眠りを送れるようになって数日。


 その日もすっきりと目覚めた私は、身支度を終え、愛犬(レイ)を引き連れ二度目の商業ギルドへ向かう。


 昨日の今日で商業ギルドへ赴くことを躊躇してしまった私。 ここ数日は街を散策したりするほか、何をするでもなく適当に過ごしていた。 そして今日、鼻息を荒く商業ギルドへと向かったのだ。


 今回の商材は、予定通りドライヤーとフードボウルだ。 ドライヤーを購入した翌日、ディナの情報により魔石は冒険者ギルドから購入するのが一番安いと聞き、すでに入手済みである。


 銀貨一枚で購入できる下級と呼ばれる小さな魔石で、およそ10分ほど利用できること、そしてその風量も十分であることは自分用のそれで確認済みであった。


 何に使うの?というディナに、こっそりとドライヤーを見せると、その性能に驚いていたが、どこかの貴族がこれより大きな魔道具により、微風のようなものを吹かせていたのは聞いたことがあるようだが、この性能の物は聞いたことも無いようだ。


 貴族は風魔法の得意な魔導士を雇い、熱風を吹かせて乾かすのがある種のステータスらしいことも聞いた。 魔道具ともなれば、その価値は魔導士の年収以上のものになるのでは?と予想してくれた。


 そんなこともあり、私の鼻息はいつも以上に荒くなっていた。


 そして、商業ギルドの重厚な門を潜りロビーに入るが、その私の背後から凛とした女性の声が響いた。


「こんにちは、お嬢さん。お待ちしておりましたよ」


 イケメンを思わせるその声に振り返ると、そこには赤髪の女性が立っていた。


 彼女は見事な柑子色の和装風ドレスを纏う美しい女性だった。 その和を感じる姿に親近感が湧くが、突然の声掛けに警戒心が込み上げる。


「突然すみませんお嬢さん。 私はフィルといいます。 以前、あなたのことをお見かけして、ぜひお話ししたいと思っていたのです」


 私が首を傾げていると、足元のレイが短く鳴いた。


「わぉん(前に来た時もいたのよ)」


 愛犬(レイ)の言葉で、彼女がただの通りすがりではないことを察した。


 フィルと名乗ったその女性は、人当たりの良い笑みを浮かべているが、警戒をしているためか、その瞳は獲物を狙う狩人のように感じてしまう。


「フィルさん、ですか? どのような御用でしょうか?」


「単刀直入に言うわ。 あの金に汚いギルド長が仰々しく送り出したあなたの商品、もしよろしければ、私にも見せてほしいの」


 その言葉に少しだけに警戒心を緩める私。 相場を知りたかったこともあり、彼女に商品を見せることにした。 まず取り出したのは、セラミック製のフードボウル。 フィルはボウルを手に取ると、驚いたように眉を上げた。


「……これは、随分と綺麗で丈夫だね。 正直、見たこともない材質のように感じる。 ……レッテ、どう思う?」


 彼女は、隣に控えていた少女にも見える小柄な女性にフードボウルを手渡した。 レッテと呼ばれた少女は、黒い法衣のような服の袖から白い指先を出し、フードボウルを軽く叩いて音を確かめる。


「軽い割に非常に硬質です。 ゆがみもなく精巧にできていますし……共和国産でしょうか?」


 共和国。 それがどこを指すかすら分からぬ私。 それを確認するように目の前の二人がこちらを見ているが、苦笑いして誤魔化すしかなかった。


 取り繕うようにもう一つの商品、ドライヤーを取り出す私。


 すでに魔石をセットしてあるドライヤーから吹き出す温風に、フィルは目を見開いたが、すぐに溜息をついて首を振っている。 周りからもざわざわとこちらを見て何かを話している人達の視線を感じ、居心地が悪い。


「とてもじゃないが、私では買い取れないよ。 これほど高度な魔導具を買うだけの資金は、今の私にはないからね。 もちろん後払いなら売りさばけるルートはあるけれど……初めての取引をする私に、そこまでの信用はできないだろ?」


 どうやらこの程度のドライヤーでも、この世界ではやはり高度な魔道具ということになるようだ。 商人の意見を聞けたことで、かなりの高額で売れることを確信し心の中でガッツポーズする私。


「ひとまずこのフードボウル? これは購入したい。 だがこれもあの男に見せるのだろう? その後で構わないよ。 まずは彼と交渉して価格を確認した上で、私と取引を選択してくれると嬉しいかな?」


 フィルはそう言って、フードボウルを私に返してくれた。


「こちらは金貨十枚で買い取りたい。 この価格なら私も取引をしている貴族相手に利益を出せる。 いくつあるんだい?」


「今、出せるのは二十個あるわ」


「なら、白金貨二枚で交渉したい。 あの男がそれより高い金額を出さなければ、できれば私に売って欲しいが、どうだい?」


 彼女の提案に、商人の間では白金貨の数で語るのが常識かもと思っていたが、そうではないらしいと、そんなことを考えた。


「ではお近づきの印として、それで手を打ちましょう!」


 私は近くの棚の上に四色のフードボウル五セットを並べた。


「おっ! いいのかい?」


「ええ。 また何かあったらお付き合い出来たらと思ってるわ!」


 高く買い取ってくれる販路は多い方が良いのだ。


「ああ。 面白い物があればぜひ声をかけてくれ。 しばらくはこの街にいるし、宿はこの前のあれだ。 カリプシ連合という商会をやっている」


 そう言ってギルドの外、向かいにある大きな建物を指差すフィル。 そして、両手で握手を求められそれに応える私。


 その間に、胸元から取り出した小袋から白金塊を取り出し、フィルに手渡したレッテが、手持ちのバッグにフードボウルを回収していた。


「じゃあこれで。 本当にありがとう、カナ」


「……こちらこそ。 よろしくね」


 そう言えば自己紹介していなかったことに気付くと同時に、名を呼ばれたことで下調べは万全だったのだと気付く。 情報は武器なんだなと感じるが、私はそう言った意味では商人として成功する気は無いので、気にしないことにした。


 そんな会話を終え、二人に見送られながらカウンターへ移動する。


 周りから感じる視線に気を引きしめる。


 とはいえ、懐に再び大金が戻ってきたことに安堵しつつ、私は本命であるドライヤーを売りつけるため、案内されるままにギルド長の執務室へと向かった。


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