表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

五 崩れない会議

楡松警部と今治警視正の繋がりを調べるため、関根と一ノ瀬は県警本部へ向かう。小暮刑事から二人の繋がりは無いと聞かされ、一ノ瀬は肩を落とす。

関根と一ノ瀬は、今治警視正の殺害容疑者として浮上した五木警視と宇喜田警部の行動記録を確認。二人は出張中で、犯行は難しいと判断する。しかし、公安部課長会議中の五木警視の犯行可能性も考慮される。

検事に検索結果を見られた環は慌てて消し、当麻警視の予定を調べたことを隠す。

「手始めに五木警視のアリバイを崩そう」

 県警本部の食堂で、ノートパソコンを立ち上げていたあたしに、一ノ瀬検事が提案した。

「はあ」

 なるべく不信感が出ないように相槌を打ったけど、あんまり成功しなかったみたいだ。

「なに、なに、無理だと思ってる?」

 検事はムッとしたように言った。

「そうは思いませんけど、こだわるとハマりません?」

 あたしは率直な感想を言った。

「とりあえず、裏を取るぐらいの感じで行きません?」

「とりあえず?」

「とりあえず」

 検事は不満そうだったが、そこは無視した。

 とは言え、手始めに五木警視のアリバイの裏を取るのは悪くないと思う。

 出席者を当たれば裏が取れる。

 とは言え、公安一課から外事課、それに公安総務の五人。さすがに五人から直接会議のことを聞き出すのは難しい。

 時間はかかるけど、周辺から攻めていくしかない。

「部下に聞けば?」

 説明を聞いて、検事は正攻法で行きたがらないあたしに聞いた。

「だって公安警察官ですよ、変に勘繰られるとメンドウじゃないですか」

 五木警視が犯人だとして、あたしたちのことを部下から聞けば捜査の妨害に走るだろう。 明希さんと一緒なら平気だけど……。

 あたしは、横目で一ノ瀬検事を見た。

「事務官とか、当たり障りのないところから行きたいんですけどね……」

 ノートPCで本部職員の名簿を開く。食堂だと、無線LANが拾えるので助かる。

 ちょいちょいと名簿を見て見たが、公安部所属の事務官は想像以上に少ない。

 部署が部署だけに、事務官が少ない方が都合がいいのだろう。

「うーん」

 いいアイディアがってこないか、あたしは職員名簿を睨んだ。

 そう言えば会議があったということは、準備した人がいるはずだ。あたしは、急いで総務部の職員名簿をスクロールする。

 思った通り、総務部に所属する事務官や臨時事務官は公安部よりも多かった。下手をするとウチの署より多いのでは?

 あたしは少し考えると、ノートPCを畳んで立ち上がった。

「給湯室に行きましょう」

「給湯室?」

 怪訝そうな検事を尻目にあたしは、スタスタと目的地に向かった。

「どういうこと?」

「偉い人が、自分たちで会議の後片付けとかします?」

「さあ? 考えたこともないね」

 これだから男は。

「しませんよ、ホワイトボードや机や椅子が勝手にきれいになったり片付いたりするわけがないじゃないですか」

 検事は、言われて初めて気がついた顔をした。この人も片付けてもらう側の人だよな。

 なるほど、などと呟く検事を無視して、給湯室に向かうと二、三人の女性が何かの片付けをしているところだった。

「ちょっと、いいですか?」

「何です?」

 中年ぐらいに見える女性たちが振り返る、カジュアルな服装からすると事務官で間違いないようだ。

「会議の後片付けですか?」

「ええ? そうですが?」

 怪訝そうに一人が答える。あまり単刀直入にも行けないので、うまくやらないと行けない。

「ここって、会議が多いですからね。私も手伝います」

「え、ええ」

 突然やって来て、手伝いを申し出るとか。怪しさ満点だが、しょうがない。

「実は、この前の事件の目撃者を探すように言われて来たんですが、見てる人なんていないですよね……」

 あたしは、洗い終わったコップを拭きながら疲れたように言った。

「刑事さんが倒れたのは見たけど……」

「あとは、何もねえ」

 女性たちは口々に、答えた。これは口実だから、見ても見なくてもあたしはどっちでも良かった。

「そうですよね、もう無茶ぶりで嫌になりますよ」

 無能な上司に振り回れる女刑事を演じるあたしに、女性たちは同情するような顔をした。

「刑事さん? 大変ね」

「朝から階段の上り下りして、もう足がパンパンですよ。警察の建物なんだから見てる人がいたら名乗り出るでしょ? わかってないですよ」

「そうねえ本当に男の人って、ダメよね」

「本当に、自分でやってみればいいのに」

 いい流れに乗れた。

「本当ですよ、コップ一つ洗わないのに」

「そうそう、こないだの事件の日なんかひどくて!」

「そうなんですか?」

 一人の女性が、何かを思い出したのか少し怒りながら言った。

「そうなの、会議が終わったのに誰も教えてくれないの! 時間通りに会議室行ったら誰もいないのよ」

「それはないですよね!」

 あたしは、力いっぱい同情した。

「そういう人って、いつもそうですよね」

「そうなの、ここだけの話だけど……刑事さんは、刑事部?」

 女性は探るような目で、あたしを見た。

「ええ、所轄の刑事課です」

「良かった、公安の人たちよ、あの人たちいっつも何もしないの。そのくせ偉そうで」

「ああ、あの人たちはねー、あたしたちも困っているんですよ」

 なるほど、公安の会議は行われたが時間より早く終わったのか。

 あたしは、女性たちの手伝いをしながら次にする事を考え始めた。

 別れ際に女性たちから、アメまでもらってしまった。これはわるいなー、と思いながらあたりを見わたす。

 すると、いつの間にかいなくなっていた、一ノ瀬検事が汗だくで倒れていた。

「何をやっているんですか?」

「会議が早く終わったなら、走れば間に合うかと思ってね」

「正確な時間も分からないのに?」

 あまりのことに、思わず声が上擦った。

「もう少し考えて下さいよ、今治警視正の事件のアリバイは崩れてないですよ」

「それは……」

 検事は言い淀んだ。

「それに、逆に考えれば会議自体は開催されたので、両方の事件に関与は出来ない。なので、五木警視は容疑者から外してもいいですよ」

「ああ……」

 悲痛な声を上げる検事を放置して、あたしは県警本部を出た。

 こんな調子だと明希さんが復帰するまで解決できないのでは?


次回は8月14日午前8時に公開予定です

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ