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二 事件半日目(後半)

明希と環は、県警本部で発生した県警総務部長殺害事件の現場へ急行。現場でベテラン刑事から、被害者が午前中に殺害され、簡易トイレに隠されていたことを知る。そこに現れた当麻警視は、明希と旧知の仲で、環にも興味を示す。


県警本部近くで遺体発見。背中に一箇所刺され、素人には難しい背中からの刺殺で、犯人はプロの可能性も。現場の簡易トイレに明希が足を踏み入れようとした瞬間、何かに突き飛ばされ倒れた。


明希が矢で刺され意識を失う直前、環に連続犯の可能性を伝える。

 後から聞いたことだけど……。

 騒然とした現場に、呆然とひたすら明希さんの名前を呼び続けるあたしがいた、らしい。

 呆然としたあたしは、当然の事ながら救急車に乗り込んで、明希さんに付き添った事も覚えていない。

 後から小暮さん——警部補に聞いた話だ。

 明希さんを慕う数少ない警察関係者の彼は、いろいろと気を利かせてくれた。

 ウチの課長に一報を入れると、受け入れ病院まで確認してくれたそうだ。

 小暮警部補によれば、一通り連絡を入れて見渡せば、現場は相変わらず騒然として統制も何もあったものではなかったらしい。

 ちょうど当麻警視が県警本部に戻って、不在だったことも混乱がおさまらなかった一因だったと小暮さんはぼやいていた。

 小暮警部補が警視を呼び出したり、あちこち指示を飛ばして、どうにか現場をおさめたのだからさすがベテランだ。

 失態も失態、大失態なのだが、まさか現場検証の最中に現役警官が攻撃されるなど、悪夢以外の何者でもない。

 そんな現場の混乱をよそに、明希さんのことしか考えられなかったあたしの記憶は病院の廊下から再開された。

 見覚えの無い廊下をただ呆然と眺めていたあたしに、看護師の女性が声をかけた。

「楡松さんのつきそいの方ですね?」

「……はい」

 低い声で答えるあたしに、看護師は続けた。

「処置が終わりました、先生からお話があるそうです」

 そう言われて、あたしはフラフラと立ち上がった。

「明希さんは……」

「大丈夫です、今は眠ってますが……」

 堰を切ったように、涙が後から後から流れ出した。

「よかった……」

 生きてる。

 よかった、生きてる。

 どれだけ泣いたかわからない、わかるのはまぶたがとんでもなく腫れたことだけ。

 泣きながら、看護師に付き添われたあたしはまるでギャン泣きする子供にしか見えなかったろう。

 どうにか落ち着いて医師の話を聞けたのが、不思議なくらいだ。

「ボウガンですかね、肺の左側を突き破っていました」

 事前に言われたのか、ビニール袋に入れた袋に入れた金属製の矢を医師はあたしに示した。

 大柄の男性医師が持つと、それだけで威圧的な武器に見える。

「幸い、心臓まで届かなかったので、命に別状はありません」

 医師は何枚かのレントゲン写真をディスプレイに表示した。

「問題は、出血の方ですね」

「血ですか! 出します、出します」

 あたしの勢いに、あからさまに医師が引き気味に答えた。

「……輸血してますので、今は大丈夫です」

「そうですか……」

 あたしが引き下がったからか、医師はホッとしたように説明を続けた。

「出血が多量で、その血液が左肺に溜まった事で、窒息したのと同じような状態になっていました」

「それって、大丈夫なんですか?」

「多少の後遺症が残る可能性がありますが、命に別状はないと思います」

 緊張していた体が、崩れるかと思った。

 明希さんが無事だとわかっただけで、身体中の筋肉が弛緩していくのが感じられた。

「しばらく意識が戻らないので、予断は許されませんが、我々も力を尽くします」

「お、お願いします」

 あたしは医師の手を取ると、両手で力一杯握りしめた。

「ま、任せてください」

 痛そうな顔をしながら、医師は答えた。


次回は8月8日 金曜日午前8時にに公開予定です。

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