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静かなる革命  作者: LOR
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第1部第8章 初めての対外試合

スパーリングを経験してからというもの、里穂のトレーニングへの熱はさらに高まっていた。


「ウェイト、また上げたの? それ男性アスリートでもキツいよ」


ある日、見回りに来たトレーナーが思わずそう漏らすほど、

里穂はすでに一般男性の数値を遥かに超える重量でセットをこなしていた。


ランニングマシンのペースも、最初の頃とは別人。

最新の記録を見たトレーナーが、数秒黙ってから言った。


「……え、何これ。マジで走ってるの?」


「一応、医学部生ですから。心肺機能も理論で鍛えてます」


冗談めかして笑ったが、実際のところ――

この数ヶ月の努力が、確実に結果を生み出していた。

確実に順調に成長している自分が信じられないと思う一方、その数字という結果が誇らしかった。


そんなとき、トレーナーから声をかけられた。


「関東女子大会、ちょうど70キロ級が空いてるんだけど、出てみない?」


驚いた。

大会なんて、まだ早いのではと思ったが、話を聞くと事情が分かった。


女子の出場者自体が少ない。

特に70キロ級は、参加者わずか4人。


「怪我だけ気をつけて。経験としてやってみると面白いよ」


最初は迷った。

もし怪我でもして、夏休み明けの学業に支障が出たらどうしよう。

東大理IIIに現役で入った自分が、まさか格闘技で単位を落とすなんて冗談にもならない。


でも――やってみたい。

それが、心からの本音だった。


 


そして、試合当日。


ひなたに試合に出ることを伝えたら、案の定こう返ってきた。


「えっ、マジ? ちょうどその日ヒマだから、見に行くわ?。

……って、試合!? ほんとに!?」


試合会場の片隅、目立たない席でひなたが手を振っていた。


初戦の準決勝。開始30秒でワンツーがヒットし、1R TKO。

次はもう決勝。1R、前蹴りから右のフックが入り、レフェリーストップ。


周囲が驚く中、リングを降りた里穂は、

正直、自分でも驚いていた。


「……私、優勝しちゃった……?」


技術的に優れているわけではなかった。

相手も未熟だった。

それでも、勝ちは勝ちだった。


体の力。動体視力。反応速度。

すべてが、知らぬ間に“戦えるレベル”に育っていた。


試合後、待ち構えていたひなたが、声を上げた。


「ちょ、なにあれ!里穂、 あんた、めっちゃ強いじゃん!」


「え、ええと……ありがとう……?」


そしてボディラインの出るユニフォームを着た里穂の体をベタベタ触りながら


「しかも、こんなスタイルよくて、こんなかわいい子がめっちゃ強いって、信じらんない!」


「ちょっと・・やめてよ・・・」


「てかあの蹴り! あれヤバいよ! スカートで出てたら絶対ファンついてた! 惜しい!」


「スカートじゃ試合できないってば……」


「わかってるわよ。でもマジで、強いって最高にカッコいいって思ったわ」


ひなたがケラケラ笑いながら言ったその言葉が、

今日一番、心に響いていた。


自分でも、まだ信じられなかった。

だけど確かに、自分は“変わってきている”。


そしてその変化を――

誰かが見て、認めてくれたことが、何よりも嬉しかった。


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