第1部第3章 初めての友人
大学での初回ガイダンス。
学籍番号順に座らされた学生たち。
里穂の隣に座っていたのは、小柄でぱっちりした目の女の子だった。
里穂と同じようにスーツ姿だが、どこか着慣れていない様子で、メモ帳に夢中で何かを書いている。
一人ひとり名前だけでも自己紹介をすることになった。
「三上ひなたです。よろしくお願いします。」
彼女はそう名乗った。
「森川さん」
ガイダンスが終わった後、三上ひなたは里穂に話しかけてきた。
「学籍番号近い女子同士仲良くしてね。」
初対面はそれだけだった。
小柄なかわいい子だな。
そのぐらいの印象。
その日の夜行われたクラス有志の居酒屋での懇親会。
女子数人が固まったテーブルで、またたまたま里穂は三上の隣りの席になった。
手際のいい幹事の進行で飲み物が各自に配られてすぐに乾杯。
里穂は隣の三上を見てぎょっとした。
「えっ、三上さん、ビール? ダメだよ、未成年でしょ?」
「ん? あ、私もう二十歳だから合法でーす。ていうか森川さん真面目だなー」
早くも酔っ払ったのか、明るく答える三上。
「……えっ……?」
「私二浪してるから。現役合格の森川さんとは出来が違うのだよ。悪い意味で。」
と、歯を見せて笑った。
「ってゆーか、女の子同士仲良くいこ? 私のことはひなたって呼んで。」
「・・・そう・・ですね。じゃあ私も里穂って呼んで・・ください。ひなたちゃん」
「ちょっと年上扱いしないで笑、同級生なんだから敬語はやめてよ。あと『ちゃん』は禁止。ただでさえ私ガキっぽく見られやすいんだから。」
「里穂は身長高いからいいよね。私なんかちんちくりんでぺったんこ。その点、君は結構良いものを持っていそうだねえ。げへへ」
わざと下品な笑いを浮かべ、里穂の体を舐め回すように見るひなた。
「ちょっと・・・やめてよ・・ひなた・・・」
「そう、その調子だ!」
ひなたはケラケラと笑いながらビールを煽った。
里穂とひなたは不思議と気が合った。
「私コスプレの衣装作りが趣味でさ、ただでさえ出来が悪いのに、イベントごとに趣味に時間取られてたら、いつの間にか二浪してたよ」
「いや、そんな趣味に没頭して、しっかりこの東大の理IIIにくるなんて、ひなたの方が私なんかより全然すごいよ。私なんて勉強しかしてこなかった」
「こら、私なんて、とか言うな。自分の価値を下げるぞ。」
「・・・じゃあひなたも自分のこと『出来が悪い』なんて言わないで」
「こりゃまた一本取られましたな」
もう何杯目かわからないビールを飲み干しながら、またにやりと笑った。
里穂のこれまでの人生では全く出会わなかったタイプの人間、ひなた。
大学に入ったことで、こうやって私の世界は広がっていくのだなと思った。
散会後、駅へ向かう途中の信号待ち、酔っ払った小柄なひなたが身長の高い里穂によりかかってきた。
「お姉ちゃん、もう飲めないよう。」
「飲みすぎだって。しかも、ひなたの方が2つも歳上なのに、何がお姉ちゃんよ。」
「でも見た目だとそういうふうにしか見えないじゃん。」
そして、いたずらっぽく笑った。
身長は20センチ近く違うのに、
性格も得意分野もまるで違うのに、
なぜかこの子とは、“ずっと前からの友達”みたいな気がした。