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静かなる革命  作者: LOR
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第1部第2章 成長の痛み

翌朝、目を覚ました瞬間――

里穂は、まず全身の痛みに驚いた。


起き上がろうとすると、太ももが悲鳴を上げる。

階段を降りるだけで、腕がぷるぷる震える。

特に背中と胸のあたりが、ひどく張っていた。


「うわ、これ……完全に筋肉痛だよね……」


初めての感覚だった。

だが、不思議とイヤではない。

むしろ、“自分の体がちゃんと反応している”ことが嬉しかった。


これまで18年間、運動といえば見学。

本気で汗をかいた記憶もほとんどなかった。

それが今、身体中が「昨日の努力」を語っている。


「……そうか。体って、正直なんだ」


それからの里穂は、変わった。


HORIZON GYMでは、まずトレーナーの指導を素直に聞いた。

言われたとおりに姿勢を整え、ゆっくりとダンベルを上げる。

その動作ひとつひとつが、まるで授業の実験のように面白かった。


「大胸筋って、こうやって使うんだ……」

「なるほど、これは僧帽筋……」

「腹直筋って意識するだけで全然違うんだ」


トレーナーも驚くほど、里穂は飲み込みが早かった。

それもそのはず、彼女は東大医学部で人体構造を学んでいる現役学生だった。


ノートを買い、詳細に自分のトレーニング記録を付け始めた。

各種目の回数、重量、セット数、フォームの感想、気づいたこと……

あんまり書きたくなかったが体重もちゃんと測って、自分の体に気を使うようにした。

スマホでも記録できたけれど、なぜか紙のノートの方が安心できた。

ページが増えるたび、自分の「変化」が実体を持っていく気がした。

毎日書くうちに、そのノートは成長のログブックになっていった。


勉強とトレーニング。

一見、全く異なるものに思えるふたつが、里穂の中では見事に調和していた。


朝は大学で講義。

午後はHORIZON GYMで汗を流し、帰宅して復習と記録。

その生活は、思いがけないほど心地よいリズムを作っていった。


「なんか……私って、体を使うのも好きかも……?」


ふとした帰り道、そうつぶやいていた自分に驚いた。

“苦手”だと思い込んでいたことの中に、“得意”が眠っていた。

そしてその扉を、いま自分で開け始めている。


痛みはある。

でも、それが確かに前に進んでいる証だと知っている。


それが、今の里穂にとって――

何よりの励みになっていた。


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