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静かなる革命  作者: LOR
23/26

第1部第22章 世界70kg級王者 田中遥輝

2026年12月22日、アメリカ・ラスベガス。


70kg級世界タイトルマッチのリングに、田中遥輝の姿があった。

相手はアメリカ人王者。体格、経験、実績――どれをとっても申し分ない世界トップレベルのファイター。


だが田中は、その王者相手に一歩も引かなかった。


序盤は互角の攻防。

だが、終盤――5R。

絶妙な距離から繰り出された右のストレートが、王者の顔面を捉えた。

レフェリーが飛び込む。


――KO勝利。


日本中が沸いた。

田中遥輝、世界王者の誕生だった。


*


その頃、東京ではHORIZON GYMでのパブリックビューイング。

ジム仲間が集まり、スクリーンを前に声援を送っていた。

その中心に、森川里穂の姿があった。


「田中さん……おめでとうございます」


画面の中で拳を掲げる田中の姿に、自然と涙がこぼれた。

心の底から嬉しかった。尊敬していた。そして、誇らしかった。


(……でも)


心のどこかで、冷静な“もう一人の自分”がいた。

スロー再生で流れる試合の映像を見て、ふと思ってしまう。


(あの展開、こう動けばもっと早く決められたかも……)


――自分なら、どうだっただろうか。

少し怖くなるほどに、“戦術”が頭に浮かんでいた。


(私……田中さんより、もう上なのかもしれない)


自分でも信じたくない感情だった。

だが、それが「真実」に近いことも分かっていた。


(だからこそ……ちゃんと戦わなきゃ)


*


イブの夜、田中にお祝いを言いに行く、と言った瞬間。

隣にいたひなたがすかさず言った。


「えっ、イブに世界王者と会うの!? あんた何者よ!」


「いや、ほんとに“お祝いを伝えるだけ”で……!」


必死に否定する里穂だったが、

ひなたはお構いなしに、翌日一式の衣装を持ってきた。


「はいっ。かわいいコートもバッグも靴も、ぜーんぶ用意したわよ。

 この服を着て、ちゃんとその男を落としてくるのよ」

「……落とすって、何よ」

「何よじゃないよ。

 あんたのそのかわいさに落ちない男なんて、いないっての。

 ……まあ、身長高い女が苦手な男は嫌うかもだけどね」


「はいはい、もう黙って」


そう言って、里穂は軽くひなたの頭を小突いた。


クリスマスイブの夜。

世界王者と、自分のすべてをぶつける――その時が、もうすぐそこに迫っていた。


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