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静かなる革命  作者: LOR
15/26

第1部第14章 王者の拳、少女の挑戦

「次のスパー、森川の相手は田中」


その言葉に、ジム中が一瞬静まり返った。


田中遥輝――

HORIZON GYMの顔であり、70kg級の現役日本王者。

格闘歴20年。プロ戦績も圧倒的。

誰もが一目置く存在だった。


一方の里穂は、格闘技歴1年足らずの女子。

試合経験もスパーリング経験も乏しく、

本来なら“交わるはずのない二人”だった。


体格差も歴然としていた。

減量前の田中は74キロ前後。

対する里穂は、引き締まって65キロ前後。

10キロ近い差があった。


それでも――

ジム側はこのカードを“試してみる価値がある”と判断した。


男子相手の練習でも引けを取らず、

時に圧倒すらするようになった里穂に、

さらなる刺激と試練を与えるには、もはや田中しかいなかった。


***


提案を受けた田中も、最初は迷った。


「女子とスパー?……いや、いくらなんでも……」


だが、ここ最近の里穂のスパーを見ていると、

彼女が“明らかに遠慮している”のが分かった。


「男子相手でも物足りなそうだった。

だったら俺が、“男子の本気”を教えるべきだろう」


田中の言葉は、どこまでも真摯だった。

同時に――


「……あの子、強くて、頭良くて、しかもあの見た目だろ。

……そりゃ、ちょっと気になるよな」


田中も男だった。

強く、美しく、真っすぐなその存在に、

少なからず興味を抱いていたのも事実だった。


ただし、田中遥輝は“拳でしか語れない男”だった。


***


対する里穂は、ただただ燃えていた。


(田中さんとスパー……!)


ワクワクが止まらなかった。


男子とも互角以上にやり合えるようになってから、

ずっと何かが物足りなかった。

“本気を出せる相手”がいなかった。


でも――田中なら違う。


彼の試合映像を見返し、動きの癖、リズム、呼吸を解析する。

相手のスタンスと打点から逆算して、攻撃のパターンを予測する。


それはまるで、東大の入試問題に取り組む時のような集中力だった。


(あの人に、自分の全力をぶつけたい)


胸の奥で、拳が握られる感覚があった。


***


そして、試合の日が来た。


ゴングはまだ鳴っていない。


けれど――

リングに上がった瞬間から、

ふたりの勝負は、もう始まっていた。


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