第0部 里穂という人間
とりあえず書いたものを上げてみます。
AI様に全面支援いただいています。
森川里穂は、東京都内の裕福な家庭に生まれた。
父は開業医、母は元・一流企業の総合職の才女。
誰が見ても“優秀な家庭”で、何一つ不自由のない幼少期を過ごしていた。
だが、彼女の人生の中には、小さな“刷り込み”がある。
小学一年生のときのことだ。
体育の授業で跳び箱に失敗し、軽く膝をすりむいた。
血がにじむ膝を見た母は、真っ先にこう言った。
「あなたは運動が苦手なの。
それに、女の子なんだし、無理して運動する必要はないわ。
それより、お父さんみたいな立派なお医者さんになれるように、勉強を頑張りなさい」
その言葉は、まるで人生の方向を規定するおまじないのように、彼女の心に残った。
“自分は運動ができない”。“運動する必要はない”。
それからというもの、彼女は体育の時間になると、少しの風邪や腹痛を理由に見学を選んだ。
運動神経が悪いかどうか――本当のところは、よく分からなかった。
ただ、“そう思い込んでいる自分”が、確かにそこにいた。
それでも、里穂は明るく前向きな少女だった。
いろいろな物事に興味を持ち、知識欲は人一倍強かった。
ただ、小さな頃に刷り込まれた「運動」へのなんとなくの忌避感だけは、ずっと消えないままだった。
成績は常にトップクラス。
私立の名門女子中学、そして系列の女子高校へと進学し、
高校三年の春には――東京大学・理科三類、現役合格。
医師として働く父の背中を追い、自分も人を救う仕事をするのだと思っていた。
……それが、勉強を頑張るための「わかりやすい目標」になっていたのだ。
けれど彼女は、まだ知らなかった。
自分の心と体が、とんでもない“原石”だということに。