まぁ、いっか
「あっ!」
百円玉が転げ、自動販売機の下に入っていった。
覗くと、見えた。かなり奥まで行ってしまっている。しばらく手を伸ばしていたが、やがて呟いた。
「まぁ……、いっか」
たかが百円だ。5分も働けば稼げるお金だ。諦めるのに抵抗がないとはいえないけど、諦めることができた。
「ええっ!?」
ネットゲームをしていたら、泥棒された。
SS級の装備をはずして見せたら、出会ったばかりのユーザーさんが、それを自分で装備して、いきなりログアウトして消えた。
「苦労して手に入れた武器だったのに……」
でもまぁ、たかがゲームだ。遊びだ。
しばらく呆然としてから、私は呟いた。
「まぁ……、いっか」
「ああっ!?」
車でまっすぐ走っていたら、脇道から出てきた車にぶつけられた。
かすった程度だけど、愛車のリアドアにくっきり傷がついた。
まさかまっすぐ走ってて横からぶつけられるとは思ってなかった。
ぶつけた車はおおきなトヨタのヴァンガードだった。私の車はワゴンRだ。
ヴァンガードはぶつけたことに気づいてないはずはないのに、そのままフル加速で逃げていった。
私はそのお尻を見送りながら、呟いた。
「……まぁ、いっか」
目が覚めると私は異世界に転生していた。
パーティーの仲間が私を蔑む笑いを浮かべて、言う。
「おまえは役立たずだから追放するわ。二度と冒険者なんかめざすんじゃねーぞ?」
確かに私のスキル『ま、いっか』は何の役にも立たない。
私は了承して、呟いた。
「……ま、いっか」
魔王に最愛のパートナーを殺された。
でも私は役に立たないスキルしかない。
魔王討伐に出かけようにも、私を入れてくれるパーティーはなかった。
剣を抜きもせずに、私は呟いた。
「まぁ、いっかぁ……」
私が6年かけて貯めた600万円が、フィッシング詐欺でゼロになった。
私は呟いた。
「ま、いっか……。どうせ人は死ぬんだし」