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お前は運んでるものが何か知ってるのか?

三日目、ようやく街道を外れ、あまり利用されていない道へと進んだ。

テイの偽装も効果が切れて、頭の上にあったリンクマーカーが無くなったので、魔法使いに見つかると厄介だから。

一応舗装されているものの、でこぼこが多く、荷車を押すのも一苦労だ。

夕暮れ、そろそろ野営場所を決めようという頃、街道の先に複数の人影が現れた。

荷車を取り囲み、行く手を塞ぐ。

「荷車ごと荷物を置いて立ち去れ」

ボクは荷車の前に出て、相手を睨みつける。

その数は見えてる限りで十数人ほど。まだ隠れてるのもいそうだ。

リングマーカーは無いし、杖を構えてる奴はいない。

つまり"印付"でもなければ、魔法使いでもない。

まあ、こんな山賊みたいなことをするのは、"はぐれ"の異世界人だけかな。

「誰に命令してるのよ」

一番前に出て来た男は、ボク、サク、ヨウの顔を一通り眺めてから、ヨウを指さした。

「お前がヨウだな。その中身はほんとうに例の魔法具か?」

「そうだ。おまえたちに情報を流した通りだ。持って行ってくれ」

「ヨウ!どういうこと!?」

え、意味が分からない。ヨウは依頼主エリックに雇われてる"印付"異世界人なのに、どうして?

ヨウはスッと離れていく。

「お前たちのこともわかっている。だが、うるさい小娘に冴えない男だけ。こんなのを恐れるなんて馬鹿げてる」

相手が誰であれ、道を塞ぐなら容赦しない。

ボクは黙って、スキル<boost(強化)>を一気に解放する。

圧が周囲に膨れ上がり、ボクを中心に爆発でもしたみたいに爆風が発生して、賊たちは圧に押されて後ずさる。

「な、なんだ?!」

驚いてる隙に殴りかかっても良いけど、今回は荷物の運送だから、飛び出すのは我慢した。

サクは自分の身は守るだろうけど、戦力には当てにしない。全てボクが撃退する。

「こ、これでもくらえ!」

不安に耐えかねたのか、弓を構えた男が矢を放つ。

途端に矢が数本に分裂し、ボクに向かって飛んできた。

スキルによる分裂だろうけど、練度が甘い。数は増えても矢自体は強化されていない。

避けるまでもない。

矢はボクの体に当たるも、硬い石にぶつかったような音を立てて地面に力なく落ちた。

「へ?」

間抜けな声を出すな。まさかそれで終わり?

「か、かかれ!一斉に殴りかかれば、怯えて逃げるに決まってる!」

呆れた。こんな連中で、ボクたちから荷物を奪えると思ってるの?

恐慌状態で襲いかかる数人を、大怪我をさせない程度に投げ飛ばす。

連携もなく、スキルも使わず、手にした棒などで殴りかかってくるだけ。こんなのは数が十倍になっても怖く無い。

ついには怯えて誰も殴りかかって来なくなった。

耐えかねたボクは、隠れて見てる首謀者に向かって叫ぶ。

「タカ!こんなのしかいないの?!」

「野生のクマだと思えと言ったはずなんだが」

やっぱり。数人の取り巻きを引き連れ、タカが現れた。

統制されたはぐれの異世界人が現れたら、タカが関わってると思って良い。

時には協力することもあるが、タカとは目指すものが違うため、敵対関係でもある。

「どういうつもり?」

「お前は運んでるものが何か知ってるのか?」

「知らないわ。知る必要がないもの。依頼は運ぶことだけ。あんたたちこそ、使えもしない魔法具をどうする気?」

魔力のない異世界人に魔法具は無用の長物。それどころか、持っているだけで位置を特定されて、警備隊や討伐隊に追われることになる。

「使える魔法具だからだ」

「え?何言ってんの?」

「そいつはな、異世界人でも魔法を使えるようにする魔法具だ。ユウたちから聞いた。あいつらはその実験のために隠れ里から攫われたんだとな」

「そ、そんなことできるわけないよ」

「使ってみればわかるさ。トキ、お前なら分かるだろ?そいつがあれば、生活魔法を使って暮らしが楽になる。電気のない村に電線を通すようなもんだ。お前の夢に大きく近づける。だから——」

ボクは地面に拳を叩きつけた。地響きとともに舗装が放射状に割れる。

「だから?」

ボクは怒っていた。ボクのことをよく知るタカは、思わず黙り、生唾を飲み込む。仲間の手前で強がっているが、内心では今すぐ逃げ出したいくらい怯えてるはずだ。

「この魔法具が何かなんて関係ない。ボクたちは依頼を受けてる。それを奪おうっていうならあんたは敵よ。そして何よりも!」

ボクはさらにスキルのギアを上げた。

ボクが纏ってるエネルギーの色が"温かみのある黄色"に。

「ボクの夢を持ち出して!そんな薄っぺらな言葉でボクが言いくるめられるとでも?それが何よりムカつく!」

「やはり説得は無駄か。なら、奪うまでだ」

「やれるもんならやってみなさい。ボクの恐ろしさ、タカがよく知ってるでしょう!」

「知ってるさ。だから正面からはやらない」

タカは不敵に笑い、一歩後ろへ下がる。そして指を鳴らすと、さらに隠れていた仲間が数人、長い布の帯のようなものを広げて、ボクの周囲を遠巻きに円を描く。

「トキ、お前は強い。でもな、力だけじゃどうにもならないこともあるんだよ」

タカがそう言うと、ボクを囲んだ布帯の円が縮まっていく。まさかこんな布でボクを縛るつもり?

「こんなものでボクは止められない!簡単に引き——」

「今だ!ドレスアップしろ!」

布帯が生き物のようにうねり、ボクの体に巻きつく。これはただの布じゃない!誰かのスキルで操られてる?!

そして、瞬く間に——。

「な、なにこれ!?」

ボクの服は、フリルだらけのドレスに変わっていた。それも、やたらと露出の大きい、ボクの世界の「美少女戦士」が着てそうなやつ!

「どうだ、トキ。そんな格好で殴りかかれるか?」

タカがニヤリと笑う。

「バカじゃないの!?こんなもん、すぐに——」

殴りかかろうとしたけど、次の一言がボクを押し留めた。

「おっと、オレは構わないが、お前自身の服はすでに脱がされてるぜ?見えちゃいけない物がいろいろ見えるぜ」

「ふ、ふざけんなぁぁぁ!!」

そう言われてわかってしまった。脱がされてる。いろいろ脱がされてる!そして日頃のボクが絶対に身につけない何かに着替えてる!スースーする!

「なんで下着まで?!」

「さて、何のことだかわからないな」

動くたびに裾がひらひら舞って気になってしまう。普段は服なんて気にしないけど、こんなフリフリを着せられたら意識せずにはいられない。

「くっ……こんな……!」

「無敵のお前でも、羞恥には敵わないだろう?」

「うるさい!ぜんっぜん気にしないわよ!」

気にしない、気にしない……。そう思って動こうとするけど、ダメだ。スカートが舞うたびに意識してしまう。

「トキさえ封じれば、サクは戦えない。荷車ごと奪うぞ!」

「ふざけるなぁぁぁ!!」

羞恥を押し殺して拳を振るった。だが、ボクのスキルは、ボクの情熱をエネルギーにしてるから、恥ずかしさを意識してしまうと、いつもの力が出せない。

チラッとサクの方を見ると、数人の武器を持った男たちに囲まれて、動きが封じられてるみたい。ある意味で良かった。こんな格好や見えちゃいけないものまでサクに見られたらと思うと、今すぐ穴でも掘って身を隠したくなる。

ヨウは?と思ってその姿を探したが見当たらない。あいつどこ行ったの?

その隙に、タカの仲間たちが荷車を押して森の奥へ走り出した。

「待てぇぇぇ!」

追いかけようにも、こんな格好じゃ走るのもままならない。結局はすごい勢いで遠ざかっていく荷車を睨みつけることしかできなかった。

「……くそっ!タカ、次会ったときは泣くまでデコピンしてやる!」

「大丈夫ですよ、トキ。本当に似合ってます」

「サクもデコピンするよ?!」

「……予定が狂いましたね。これ以上騒ぎが大きくなると厄介だ。ひとまず離れましょう」

サクが歩き出す。いつの間にか戻ってきてたヨウを見つけ、ボクは視線でヨウに「行きなさい」と促し、素直に彼が歩き出したのを見てから、その後を追った。











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