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それが君たちの"無印商売"でしょ?

──《SYS.AUTH_INIT》──

異世界人について話しましょうか。

異世界人とは、魔法使いたちの手によって強制的に召喚され、この世界へと引き寄せられる存在のこと。

召喚が行われるのは、年に二度。この世界の中心にある小さな島、その神殿に設置された巨大な魔法陣によってのみ執り行われる。

"異世界人"と一括りにされてはいるけれど、彼らが元いた世界はそれぞれ異なります。

まったく同じ世界から二人が召喚された例は、今のところ確認されていない。

召喚されるのは、決まって十歳前後の子供たち。

一度に数十人がこの世界へと呼び出され、到着するとすぐに、魔法陣に組み込まれた選別の魔法が発動する。

その結果、およそ三割ほどの子供たちに"リングマーカー"と呼ばれる印が付くのだけれど――。

その選別の基準は明かされていないのです。

魔法使いたちがよく口にするのは「使えるスキルにマークをつけて、他のは役に立たない」ですれど、それが真実かどうかは誰にも分からない。

さて、問題はここからなのです。

召喚された子供たちは全員が魔法によって拘束され、恐怖に怯え泣き叫ぶ声が響く中で――。

リングマーカーが付いた子供たちは、即座に転移魔法でオークション会場へと送られる。

そして、魔法使いたちの手に"売られる"の。

では、リングマーカーが付かなかった子供たち。

彼らは不用と見なされ、"捨てられる"のよ。

方法は、極めて残酷。

子供たちは樽の中に詰め込まれ、そのまま海へと流される。

運が良く助けられた子は隠れ里に保護される。

助けられなかった子たちがどうなったかは、察してちょうだい。

隠れ里って言うのは捨てられた異世界人たちが、自給自足で暮らしてる集落ね。

いつでも引っ越せるように、移動式の住居で暮らしてる。

魔法使いに見つかったら、捕まって、処分されてしまうから。

あるいは、攫われて闇オークションで密売されてるなんて話も聞くわね。

なぜ捨てるのか?

自分たちが勝手に連れてきておいて、なぜ?

どうして、そんな非道な方法を取るのか?

そもそも、なぜ異世界の子供たちをさらうように召喚するのか?

――疑問は尽きないけれど、答えはどこにもないのよ。

──《SYS.AUTH_TERM》──


「お!ほんとに直ってる!力いっぱい吹き飛ばしたのに!」

ボクは修復された第四門を見上げながら感心した。魔法って本当にすごい。こんなの手作業で直していたら数カ月はかかるはず。

門の周囲では、頭の上に天使の輪みたいなリングマーカーのついた"印付"異世界人たちが箒を手に作業している。あれがテイの言ってた「後始末」ね。

「では、中に入りましょう」

サクが門へ向かう。ボクも後に続いていく。

入国は驚くほどスムーズだった。

さすがテイが用意した偽装身分証。検問の兵士に手渡すと、魔道具にかざされピッと音が鳴る。

カードを返され、兵士は疑うそぶりもなく門を開けた。まるで交通系ICカードみたい。魔法って便利。

「ようこそ」

事務的な口調に拍子抜けした。

「楽勝!」

「まだ依頼は始まってませんよ」

サクは油断なく辺りを見渡し、人通りの少ない裏路地を選んで進む。向かう先は、依頼人が待つ貨物倉庫。

でも、待ち合わせ場所が研究所じゃなくて貨物倉庫ってどういうこと?

「待ってたわよ」

倉庫の前にいたのは、派手な化粧をした青年だった。依頼人?

「早く中に入って。ドアを閉めたいの」

彼は名乗るよりも先に、倉庫のドアを少しだけ開け、ボクたちを促す。よほど見られたくないものがあるのか、周囲を警戒し続けていた。

サクが先に入り、ボクも慌てて後に続く。

倉庫の中は薄暗く、目が慣れるまで少しかかった。小さな天窓から差し込む光が、埃っぽい倉庫内に光の梯子を下ろしてるみたい。

ボクたちが入ったと同時に、青年も中に入り、内側から念入りに鍵をかけ始める。その様子に違和感を覚えた。

あれ、なんか変な……?

「珍しい。魔法鍵ではないですね」

「え?……あ!」

そうだ。魔法鍵なら手をかざすだけで施錠できる。でもこの青年は5種類もの鍵を手作業でかけている。それも、内側から。

「この倉庫、ただの貨物倉庫ではありませんね。そして、これが依頼の魔法具でしょうか」

目が慣れると、倉庫の中はがらんとしていて、使われていない空き倉庫のようだった。サクがじっと見つめる先には、大きな金属製の箱がいくつも積まれている。

「暗くてごめんなさいね。この中では魔法ランプは使わないの。暗いまま話を進めるわよ」

「私はサク、こちらはトキ。あなたが依頼人ですね」

サクが話を進める間、ボクはまだ状況を飲み込めていなかった。やっぱりサクは頼りになるって思う瞬間だね。

「うん、そうよ。僕はエリックと呼んで?研究者よ。でも僕が何者かなんて、依頼には関係ないわよね。それと、この格好とか喋り方は気にしないで。ばれないようにしてるだけ。あなたたちにじゃないわ。研究を盗まれるかもしれないから、念のためよ。でも、あなたたちは別にいいの。魔法研究のことを説明してもわからないでしょ。でも、だからこそ話したくてたまらないの!」

急に早口になったので驚いた。

なんなの、この依頼人。研究の自慢がしたいの?でもまず確認しなきゃいけないことがあるよね?

「ちょっと待ってよ。まさか輸送する魔法具って、この重そうな箱?」

魔法具って手に持てるものだと思っていたのに、まさかこんな大きな金属箱とは。それもいくつも。

「そうよ。もちろん全部運んでほしいの!十箱あるわ。一箱の重さは100kgくらいかしら。小型化は今後の課題ね。嵩張ってしょうがないわ。でも背負って使うのも悪くないかも?肩凝りそうだけど」

いくらでも勝手に話し続けそう。

でも聞き捨てならない。

「全部で1トンあるじゃない!運ぶ手段は?こんなもの背負えないでしょ?」

「それなんだけど……中身は取り出さないでほしいのよ。魔法具自体も大きいし、箱は魔法による追跡を防止する研究も兼ねてるの。魔法具が魔法に反応するのを妨害するの。魔法を遮断するためにはこのサイズになっちゃうのよね。だから箱ごと運んで!」

「……あの者はいったい何者ですか」

サクがボクやエリックと名乗った青年ではなく、倉庫の奥を見据え、鋭く問いかけた。え、誰かいるの?

「ああ、ごめんね。説明が遅れたわ。出ておいで、ヨウ」

エリックが呼ぶと、暗闇の奥から音もなく少年が近づいてきた。

まだあどけなさが残ってる。細身で背も低め。茶色っぽいくせ毛がふわふわしてる。

頭の上にはリングマーカー。

「はい」

「彼はヨウ。僕が買った異世界人の一人よ。今回の依頼を手伝わせるから、使ってちょうだい」

ヨウは何も言わず、ただボクをじっと睨んでいる。初対面のはずなのに、なんで?

「依頼は魔法具の輸送。運ぶべき魔法具はここにある十箱ですね。では、目的地と輸送条件をお示しください」

サクがすかさず確認に入る。エリックに主導権を握らせると話が終わらなさそうだからね。

「うん、この箱全部を国境近くの秘密の研究場所へ運んで。場所はヨウが案内するわ。それから条件はただ一つよ。魔法記録を残さないこと。まあ、あなたたちじゃ、記録の残りようがないでしょうけど。でも気を付けてね。トラックに便乗したりはしないで。箱を勝手に開けたりしても感知されるかもしれないから。あ、門は安心して!まだ第四門の探知系は機能復旧してないから!」

「つまり密輸ってこと?やばいものなの?中身は?」

つい口を挟んでしまった。だって、何を運ぶのかまだ聞いてない。

「君たちに頼むんだから、正規の研究じゃないってわかるわよね?それが君たちの"無印商売"でしょ?」

まあ、そうだけど。でも、中身くらい教えてほしい。

「条件に期限が含まれていないようですが」

サクはあえて中身に触れずに進める。もしかして、もう察してるの?

「急ぎじゃないわ。重いから大変でしょ?ゆっくりでいいの。でも記録に残らないこと、これだけは絶対」

「承知しました。お引き受けいたします。よろしいですね、トキ」

「え、うん、いいけど……」

「何か気になることでもありますか」

中身が気になります!……でも、聞くなってことよね?

爆発物だったら嫌だなぁ。なんでそこまで"記録に残らないこと"にこだわるの?そりゃボクたちに来る依頼はたいていそうなんだけど、こんなに念押しされたのは初めてだ。

サクは何かを察してるんだろうけど。

「ううん、ごめん。何でもないよ」

ここはサクに任せよう。

「じゃ、お願いね。僕はもう行くよ。忙しいから」

手をひらひら振りながら去っていくエリック。

こうして、この怪しすぎる依頼を引き受けることになった。











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