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君ほどの美しい女性に出会ったことがない!

港に停泊する船で夜を明かしてから、早朝に出航した。

太陽は高く昇り、海面をきらきらと照らしていた。波は穏やかで、船は滑るように進んでいく。

静かな航海――っていうか静かすぎた。

「なんもしゃべてくれないね」

「ああ。無駄だろ?」

ボクは船を動かしてくれてるはぐれ異世界人に話しかけ続けていたけど、誰も、何も答えてくれなかった。

はぐれ異世界人たちに慕われやすいタカでさえ、ダメだった。

ヨウが言ってたように、何かに怯えているようにも思うけど、何に怯えているのやら。

――そのヨウも、今はじっと黙ってうつむいてる。でも、ボクから話しかけるのも違うしなぁ。

やることもないから、じっと海を見つめてたボクが最初にそれに気付いた。

……え、待って。なんか、おかしくない!?

さっきから、船の揺れ方が妙に滑らかすぎる。波に乗ってる感じがしないし、風向きが変わっても進路が全然ズレない。

「も、もしかして!」

ボクは甲板の端に駆け寄って、船の底をのぞき込むと、なんと船が浮いてる!

「ねえ!なんかおかしいよ!」

ボクが叫ぶけど、タカもサクも落ち着いた様子で、遠くを眺めてる。

「ああ、オレも今気づいた。これはやばいな、相当な大物が出てきたようだ。……サクじゃねえが、予定通りかもな」

「ええ。予定通りです」

「え?」

「見てみろ、罠に向かって一直線だ」

タカが指さす方向を見ると──、目の前に広がるのは、どこまでも続く海……じゃない。

船。船、船、船!!海の上に一直線に並んでる船の一団が、どんどん近づいてる。ってか、ボクたちの船が引き寄せられてる?!

どの船もマストはあるけど帆は張ってない。それでもピタリと整列して動いてるし、波の影響もほとんど受けてない。

つまり、全部魔法で動かしてるってこと!?

ボクたちに為す術もなく。船の一団はあっという間にボクたちを取り囲む。包囲されてしまった。

「紋章がない。どこにも所属を示す旗もない……つまり、名乗る必要のない連中だ」

「……ってことは、これ、まさか……」

包囲の中から一隻の船がぬるっと前に出てきた。

周りの船と違って少し小ぶりだけど、やたらと作りが洗練されてる。無駄な装飾がなくて、逆にそのシンプルさが不気味。

そして、甲板にそいつは立ってた。

風にたなびく派手な紫のコート。片手には分厚い帳簿のようなものを持ち、もう片方の手で帽子のつばを軽く弾く。

「ようこそ。いやはや、君たち自ら我々のど真ん中に飛び込んでくるとは。こんなに素晴らしい偶然があるだろうか?いや、これはキミと私の運命の出会いだろうか?」

その男はキザったらしい声で芝居じみた手ぶりで勝手にしゃべり始めた。

「一応、聞くわ。あんたはだれ?」

「これは失敬。申し遅れましたね。私はベリオ・シュランクと申す。組織の取引交渉人を務めさせていただいています」

ベリオと名乗った男はご丁寧にお辞儀する。

灰の手アッシュ・ハンドの営業担当ね」

「私のことをご存じとは、これもまた運命なのだろうね。売り物になりそうなスキル持ちが、こんなに揃っている。この機会を逃す手はないだろう?」

ベリオはにこやかに笑いながら、手に持っていた分厚い手帳を開き、とんでもないことを口走る。

「トキ、スキルは<boost>、押し上げる、つまり……己を高みへと導く能力か、この力で世界に亀裂を入れたのだな、素晴らしい」

「な、なに?どうしてボクのスキルを!」

ボクのスキルは、いろんなところで魔法使いに目撃されてるから、今更なんだけど、そのスキル名までは知られていない!

「なんだ、びっくりさせてしまったかな。この魔法具は周囲の異世界人のスキルを解析する。次、サク、スキルは<schedule>、紙片……つまり、お前は紙を作る能力か、鼻紙でも作って鼻でもかんでおきたまえ」

サクのスキル名も!異世界人の仲間だって知ってるのはボクかタカくらいだ。

本当にボクたちのスキル名を読み取れるんだ!ベリオは次々に読み上げていく。

「タカ、スキルは<decrypt>、隠されたものを取り除く?……呪いや封印を解く能力か?」

「……厄介だな、あの魔法具!」

でも、スキルの内容はいい加減もいい加減。全く違ってる。たぶん、ベリオがスキル名から推測してるんだろう。

下手に反応しない方がいいね。スキル名が知られたくらいなら、まだ対処できる。

「カイ、スキルは<collapse>、共に滑り落ちる?……運命を共にする契約を結ぶ能力か?ヨウ、スキルは<free>、束縛のない……なるほど、自由になる能力か。この力でお前を買った者の首輪を外したのだな」

「違う!オレのスキルはそんな役に立たないものじゃなーー」

ヨウのバカ!ボクは思わず、ヨウに飛びついて口を押さえた。

ヨウはびっくりした顔をしてるけど、いいから今は黙ってなさい!

「ふむ、やはり君以外の者は役に立たない能力ばかりだな。トキ、やはりこの出会いは私と君との運命ではないだろうか!」

ボクはタカとサクの目を見ただけで、その役割分担を決めた。長い付き合いだから出来ることだ。

何故か顔を真っ赤にしてるヨウを放して、一歩前に出て、ボクがベリオの注意を引くことにした。

時間を稼ぐから、二人ともなんとかして!

「運命とかそういうの、ボクは別に信じないよ。あんたとボクは初対面でしょう?」

「おやおや、運命を信じないとは、ね。それは残念だ。しかし、信じない者ほど運命に翻弄されるものさ。たとえば……」

ベリオは片手を軽く宙に掲げ、指を鳴らす。すると、ボクたちの乗る船全体が軽く震えた。

「その船に乗る君も、そして君の周りにいる仲間も、すべて運命の盤上に置かれた駒に過ぎない」

「あんたがなにをしたいのかわからないけど、ボクたち依頼で忙しいから、また今度にしてくれる?」

「つれない言葉は寂しいな。美しい君とこうして向かい合えたのも、これは運命の導きだろうに。正直ね、私が欲しいのは君だけなんだ」

美しいと言われて、ボクは顔が引きつる。鳥肌が立つ!でも、ここで突っぱねるわけにはいかない。時間を稼がなければ。

「ボクなんて美しくない。それに、あんたが欲しがるものは何も持ってないよ」

「いやいや、いやいや。キミは美しい。なによりその非常に素晴らしいスキルは、代えがたいものだ。なにせ、その拳ひとつで世界に亀裂を入れて見せたではないか!私も魔法をそこそこに使うが、世界に亀裂はおろか、傷一つつけられないだろう。それは世界に一つしかない宝石のような輝きを放っているよ」

「呆れた。人をスキルでしか評価できないの?」

「これは失敬。気分を悪くさせてしまったね。君が自己評価が低いから、ついスキルのことを口してしまった。もちろん、君のスキルがきっかけだったことは認めよう。しかし、こうして君の姿を目にしてしまったら、そんなものはおまけだったと知れたよ。君ほどの美しい女性に出会ったことがない!」

うざい。うざい。うざい。――でも、がんばる。

「そんなの、女とみたらみんなに言ってるんでしょ?」

「ひどいな。私は真心を込めて君だけを口説いているのに」

ベリオは芝居がかった仕草で胸に手を当て、ドラマチックに嘆いてみせる。そして、すぐにボクの瞳をじっと見つめた。

「君の瞳は深海のように澄んでいて、それでいて強い意志を秘めている。そんな瞳を持つ女性には、私は初めて出会ったよ」

ボクは内心で(うわぁ……)と絶句したが、微かに笑みを作りながら、目を伏せた。

「そんなこと言われたのは初めてかも。みんなボクを女扱いはしてくれないし」

そして、ちょっと上目遣いでベリオを見つめる。ボクだってこのくらいの色目は使えるよ!

「無理もない、君の美しさと気高さは、凡庸な男たちには理解できない。しかし、私は違う」

ベリオは滑らかな手つきでその指をボクに向かって伸ばす。

「このまま、私と手を取り合ってみないか?君が望むなら君のためにすべてを差し出そう、君の仲間をこのまま見逃すことにだって応じよう」

みんなを人質にとってボクをさらう気?!もう限界!ぶん殴りたい!と思って拳を握りしめたとき。

「ちょっと待て!」

突然にヨウが叫んだ。

「オレは違うぞ!オレはトキを素敵な女性として見てるんだ!トキが好きなんだ!」











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