どんな依頼?
ボクの名前はトキ!
名前は"うつりかわる"じゃなくて"あまねくゆきわたる"っていう意味ね。
元気いっぱい!パワー全開!殴って解決!がモットーの燃焼系女子。
ボクは"無印商売"っていう仕事をしてる。
簡単に言うと、なんでも屋!
世界中の魔法使いからの依頼を、ボクと相棒の二人で受けてる。
ときにはちょっとヤバい仕事もあるけど、報酬さえもらえれば何でもやる!
ボクは肉体労働担当。荒事も荷物運びも、なんでも殴って解決するよ。
そんなボクの相棒がサク!
彼は、ボクとは真逆のタイプでさ。
ボクが元気いっぱいで、勢いで突っ走るタイプなら、サクは落ち着いてて、冷静で、めちゃくちゃ頭が切れる。
ボクが勢いよく飛び出して「うおおおおお!!」って突っ込んだら、サクが後ろでため息つきながら「予定通りですね」ってフォローする感じ。
でも、絶対にボクのこと見捨てないんだよね。ボクが無茶しても、しっかり後ろで支えてくれる。
もうさ、めっちゃ頼りになるの!
サクは必要以上のことは喋らないし、感情が表情に出ないから分かりにくいけど。
ボクがピンチになったら、何も言わずに助けてくれるし、ボクが悩んでても、いつの間にか解決する方向に持ってってくれる。
……なんていうか、ボクにとっては兄みたいな存在なんだよね。
この世界にきてからずっと一緒にいるし、たぶん、この先もずっと一緒にいてくれる。
絶対の信頼がある。一緒にいると安心する。どんなことがあっても、サクがいるなら大丈夫って思える。
ボクの夢は、異世界人が安心して暮らせる町を作ること!
今の世界って、異世界人が肩身狭く生きてて、世界中に散らばって隠れて住んでいるんだ。
でも、ボクはそれが許せない!なんで隠れてなきゃいけないの!勝手に連れて来たのは魔法使いなのに!
だから、ボクたちが誰にも支配されずに生きられる場所を作りたい!
異世界人だけの町を作って、みんなが笑って暮らせるようにしたい!
そのために何をすればいいのかわかんないけど、たぶんお金はたくさんいる!たくさん稼がないといけない!
だからボクは、どんな仕事でも全力でやる!
サクと一緒なら、どんな困難だって乗り越えられる!
今日も明日も、ボクたちは無印商売で駆け回る!
よっしゃ!今日も張り切っていくぞ!
「あなたたち、派手にやりましたわね。壊された建物や門を直すのがずいぶん大変みたいですわ」
ここは筆硯国にある事務所。
ソファにぐでーっと沈みながら呆れたように言うのは、ボクたちの上司であり"無印商売"のオーナー、魔法使いのテイ。
すらっと長身で、すっごい美女。艶やかな黒髪をゆるく巻いて、ふわりと肩にかけてる。
サクによれば、彼女はすごく偉大な魔法使い。魔法具の通信機を開発したらしい。
比類なき賢者で、もう何もしなくても勝手にお金が入ってくるから、ものすごいお金持ち。
でも、ボクがいつも見るテイは、いつもソファに寝そべってる姿だけ。せっかくの整った容姿も台無しなだらけっぷり。
「魔法ですぐ直るんでしょ?」
ボクが悪びれずに言うと、テイは大きくため息をついた。
「魔法で直すのは簡単ですわ。魔杖国なら、なおさらです」
「なら、楽勝ね」
「その後始末が大変なんですわ。魔法使いたちは外出規制。国中の"印付"異世界人を総動員で対処してるみたいですわ」
「あー。まあ、うん。ごめん。でも、子供たちを救うためだったし。……なんで"はぐれ"のユウたちは研究所にいたんだろ?」
罪悪感がないわけじゃないけど、異世界人としては緊急避難だったと思ってる。
「タカから聞きましたが、ユウたちは何者かに隠れ里から連れ去られたようです」
黙っていたサクが告げる。さらわれた、という言葉にボクは身を乗り出した。
「魔杖国の魔法使いがさらったの?」
「いいえ、そうではなく、異世界人をさらって密売している組織が関わっているのではないかと。タカが詳しく調べるそうです」
タカは"無印商売"の仲間ではないけど、顔が広くて便利なやつ。自称革命家だからね。
ボクとサク、そしてタカは同じ隠れ里で育った縁もあり、よく手伝ってもらってる。
「なんでそんな奴らが捕まらないの?」
「異世界人をさらうのは違法ではないからです。許可なく売るのは禁止されてますが、記録に残らないようにやってるのか、あるいは黙認されているのでしょうね」
「え!だって魔法を使えば何でも記録に残るし、書き換えすることも出来ないんでしょ?」
魔法使いたちは魔法を使うたびに記録・監視されてるらしい。それは世界評議会が厳密に管理してるって聞いたよ?
「記録に残したくなければ、魔法を使わなければよいだけのこと」
テイがさらっと言う。でも、それだと……。
「なら、どうしてボクたちの"無印商売"が成り立ってるんだろ。魔法を使わなくても悪い事が出来るのなら」
ボクたちの仕事は、魔法使いから依頼された仕事を請け負う事から始まる。
合法・違法は問わない。魔法使いの法律に反していても、ボクたちは関係ないから。
異世界人には魔力がない。魔法を使えないから、記録に残らない。
記録に残らないことを調査する機関はない。魔法使いの犯罪は記録を見ればわかるから、調べる必要ない。
つまり、"無印商売"は「印(記録)が無い(残らない)商売」って意味だ。
「さあ、知りませんわ」
テイはいつもこんな感じ。面倒になったらすべて「知らない」の一言で済ませちゃう。
「では、依頼ですわ。世界評議会からーー」
「お断り!次!」
どんな仕事もやる!と言った手前、急にどうした?って思うでしょうけど。
世界評議会は別!
そもそも異世界人を見つけたら捕まえる組織が、なんで無印商売に依頼してくるのよ!
「では、次の依頼ですわ」
テイも「そうでしょうね」という感じで苦笑してる。
「どんな依頼?」
「魔杖国で魔法具の運送依頼ですわ」
ボクとサクは顔を見合わせる。
「冗談でしょ?さすがにやばくない?」
「先日の騒動が我々の仕業だと承知のうえでの依頼なのですか」
ボクたちが大暴れし、門を吹き飛ばしたのはほんの数日前。
そんな事件の直後に、異世界人のボクたちに依頼?何を考えてるんだろう。
「さあ?詳しい話は依頼人に聞いてくださいまし。魔杖国の研究所に勤める研究者ですわ」
「ユウが逃げた研究所からの依頼?まさか、逃げた異世界人を捕まえてこいって話じゃないよね?」
「落ち着きなさい、トキ。テイは輸送依頼と言いましたよ」
「あ、そうだったね。でも、さすがにこのタイミングで?」
「わたくしは依頼が来たから受けただけ。あとはあなたたちでなんとかしてくださいな」
気怠そうに言うテイ。ボクたちは互いに顔を見合わせた。
この仕事、受けるべきか?いや、考えるまでもない。
「受けるよ」
ボクは即答した。
「即答とは、あなたらしいですね」
「罠なら罠でいいよ。ぶっ飛ばして進めばいいだけ!殴って解決よ!」
ボクは拳を握ってアピールした。
「新しい偽装は準備できていますか」
サクがテイに確認してるのは、ボクたちが都市に入るために必要なもの。
「これを使ってくださいまし」
テイが差し出したのは二枚のカード。偽装身分証。
「もう!毎回毎回、新しいのを貰わなきゃいけないの、面倒!」
受け取りながら文句を言うボクの頭の上に、リングマーカーが浮かぶ。
テイは構う事なく「知りませんわ」と小さく呟き、クッションを抱えて顔を隠した。
「偽装はあくまで仮のもの。テイほどの魔法使いだからこそ作れるものです。それでも数日で使えなくなってしまいます」
「まあ、いいや。行こう!」
ボクは拳を振り上げ、事務所を飛び出した。サクもそれに続く。
残されたテイは、ソファに寝そべったまま「いってらっしゃいまし」と送り出してくれた。
「今はあなた様に従いますわ。でも、いつまでこんな不毛なことを続けるおつもりかしら」