農業用装甲機爆走&事故
魔王が倒されてから1年……。長いような、短いような日々が過ぎ去っていった。
ここ最近の出来事といえば、近代都市「アイダモ」を本拠地として活動していた「真柱」の1人、「アモーレ卿」が失踪した事だろうか。
その影響で都市「アイダモ」の政治は、ほぼ機能停止してしまい、最早都市自体の壊滅もあり得る話だ。
さて、場面は変わってある村の近く。深い森中の話――。
*
「どこ行きやがった、あの家畜!」
普段は物静かな森は、ある密猟者3人の足音と怒号で汚されていく。
彼らは血眼になって誰かを探していた。
一体、何がいるのだろうか。家畜と呼ばれた生物は、少なくともこの近くに潜んでいる。
きっと息を潜めて、隠れている。
「…………っ!」呼吸が荒く、体を埋めた草むらの葉を揺らした。
ボロボロの布切れに身を包んだ少女の体は、ひどく痩せ細り、土の汚れがあちこちに付着している。
闘牛の様に尖り、垂れている耳は震えている。もう随分とご飯も食べていないのか、本来の彼女たちの種族、「ミノタウロス」の特徴である強靭な筋骨は見る影もない。
「あいつ……、急に暴れて逃げやがって……。ボスに殺されちまうよ……!」
「落ち着けよ。たかが家畜一匹だろ?さっさと見つけて帰ろうぜ。」
草をかき分けて徐々に少女の元に足音が近づく。
呼ぶ声も、少しずつ大きくなっていく。
捕まれば、また……。少女は想像をして吐き気を催す。覚えてしまった痛みの数々が、自らに拒絶するように呼吸をずっと荒くする。
「なあ、今のガサガサって音聞こえたか?」
「ああ。ここら辺からしたぞ。」
静かに男達は、銀色に響く大きなナタを手に取った。
しらみ潰し。それでも着実に少女の近くに。男達は確信した様にニヤついている。
「出ておいで〜、もう痛いことはしないからさあ〜。」
ナタを振り回しながら気色悪い声を出している。
その姿が、嫌にも全部を思い出させる。
少女は、同時にあることを思い出していた。
少し前まで一緒にいた両親のこと。貧しい村でありながらも、一生懸命自分を愛して、育ててくれた2人。
父はよく「自由に暮らせ」と、母は「強く生きなさい」と言っていた。
結局強くはなれなくとも。ただ、自由には生きたかった。
少女の頬に涙が一閃通った。どれだけ泣いても、あるのは絶望だけ。
「…………なあ。」
もう目と鼻の先まで来ていた男は、真顔で呟いた。
「なんか、音しねえか。やっぱり。」
「どこらへんだ?」
3人は黙る。
目を合わせると、指を指した。
「あっちから…………これ、なんの音だ?」
遠くか、近くか。聞いたこともないような重低音が森中に響く。
「うわあああああああああ!」
突然、男達の1人が悲鳴をあげる。
少し離れたところで立っていた姿は、もう見えない。
残った2人はナタを構えて周りを見渡す。
「なんだ?!魔物か?!」
「ここいらで出てくる魔物にしちゃ、聞いたことねえ声だぞ……!」
背中合わせになって2人は生唾を飲む。奇妙なのは、ずっと音がしていること。
基本、魔物は獲物を見つけるとそれなりに身を潜めたり、狡猾に殺そうとする。
特に森の魔物は賢い。だからこそ、異常だ。と2人は気づいていた。
異常な何かが、今この近くにいる。
少女の恐怖は、そちらに移り変わっていく。
1人の男が、恐怖のあまり汗をかいている。
一筋の汗が顎から落ちると、その瞬間。「何か」が飛び出した。
赤く、細長い、長方形の何か。
魔物にしては余りに出来すぎな体。機械にしては不恰好な「それ」は、男2人を飲み込んだ。
ドッドッドッと心音?を鳴らして血で溢れたそこに立ち尽くしている。
四つの足。丸く黒い足は、到底生き物とは思えない。
「あれ?なんか轢いた?」
それ、の中腹あたりから声が聞こえた。人間の言葉。
ひょこ、と体から出てきたのは、翡翠のような緑色をした髪の青年だった。
その男は紛れもない「フユ・レガース」。そこで「あちゃー」と言わんばかりに頭を掻いていた。
「またやっちまった……。ここに来る前、免許持ってなかったしなー……。――ん?」
余りの衝撃に体を動かしてしまった少女は、自分を見つめるフユに恐怖する。
昔の性か、それとも本能か。フユの得体の知れなさが少女を強張らせる。
フユは目を細めて「んー……?」と口を尖らせている。
「バン!」と爆裂音と共に草むらは消し飛んだ。
「――ひっ!」尻餅をついてフユを下から見つめる。
彼の目には、とても生気があるとは言えない、深い深い緑色があった。
「あんたこいつらの仲間?」
血塗れの地面に指を指す。必死で少女は首を横に振った。
「ほーん。ふーん。」ジロジロと見ながらフユは少女の周りを回り続ける。吟味でもしているようだ。
「うん、決めた。」
フユはニカリと笑うと少女に手を伸ばす。
「着いておいで。悪いことはしないから。」
その言葉は余りに信用性が無さすぎるではないか。まるで誘拐犯のセリフだ。
それでも、少女の目にはなぜか、小さい頃聞いた物語の英雄の様に見えたと言う。
少女は震える腕を上げて、手を伸ばす。泥だらけの掌をフユは迷わず、力強く握る。
「行こう。」彼の目が少しだけ、本物のエメラルドのように輝いた。
ガンダム見てえ。けど時間ない。てことは時間が欲しい。