表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

野菜、食えよ

 「貴様、何者だ?」高貴なるドラキュラの血族であり、唯一一族で「陽」に魅入られ共に生きることを許された娘。「アモーレ・ブディナ」は目の前の「恐怖」に問う。


 が、男は直立したまま黙っている。目を見張るほど目立っている、北風のような緑髪。妖精と言われても疑わないであろう、細く美しい体。


 そしてその全てを否定するような。拒絶するような「覇気」。魔王も引くほどの存在感が、彼を「異様」だと本能が告げる。


 「…………えか?」


 小さく口を開いただけ。それだけでアモーレの体を震わせるほどの「恐怖」。


 「…………お前か?()()を壊したのは…………。」


 「それを知ってどうなる?申し訳ないがもう全て()()()()()()()()()ぞ。」


 なんとか平静を保つために挑発をしつつ対話に持ち込む。気高き名家の出でありながら、交渉術には抜かりのない賢き淑女。


 その力で、のし上がってきたのだから。その成功体験の数々が彼女をさらに強くした。


 しかし、イレギュラーというのは、常に潜んでいるものだ。


 「『佩く冷戦(ヴリーズ・ヒエン)』」詠唱の無い、単呪文。たった一言の魔法で、辺り一面は氷河に包まれた。


 周りの全て。焼き捨てられた世界は彼の冷気に呑まれる。


 アモーレの魔壁でさえも貫通する魔力は、足を凍らせていく。


「それで……、お前が壊したのか?」


 凍えながらもアモーレは絶対に弱気にはならない。常に強く、舐められない様に。残念ながら、今回はその全てが逆効果。


「あ、ああ。――私が壊した。」


「…………そうか。」


 その時、氷河の地が揺れた。文字通り、揺れていた。魔術?魔法?


 答えはただの「闘気」だ。


「『金寧破飛(ポップ・デート)』」


 直後、アモーレは空にいた。月が近くに感じられるほど、世界が一望できるほど、天高く舞い上がった。


「何、だ――!」


 咄嗟にアモーレは両手を地に向けて魔法を放つ。


「『砂城の塔(ユリカ・リ)』」


 この技、世界に存在する4つの「至宝魔術」。言い方を変えると「基礎魔術」。


『砂城の塔』はその中でも「適応」の意味を持つ特殊魔術。


 放たれた呪文。特に発動時ではなく、発動後に役に立つ魔術。軽い呪い、毒、持続系も全て合わせて適合する。


 だが、しかし。それは意味のないこと。適応などする理由もなし。


『金寧破飛』はただの衝撃魔術でしかないからだ。


 要するにとてつもないパワーで吹き飛ばしたのみ。


「ぐ、ぁ……。」一瞬でアモーレの鳩尾にフユの長い足が届く。


 アモーレはとてつもない速さで吹き飛ばされる。目を下に向けると、ニヤリと不敵に笑う。しめた、と彼女は思った。


 そこはちょうど「アイダモ」の直上。


「ッ私の勝ちだ!」


 月夜に染まるほど紅く、広げられた翼は、滑空するように都市へと自由落下した。


 アモーレは落ちながらも天に手を翳し、呟く。


「『六面球門(グラビィエイト)』」


 六角形のシールドが街の上部を取り囲んでは守り始める。


 それは外部からの断絶。そして拒絶。それでいて魔法の壁。


 名を『六面球門(グラビィエイト)』。世界でも物珍しいアイテム、「魔法封殺(キラー)」の1つである。


 フユのスピードすらも上回る早さで展開されたドームは、彼の体に衝突してもビクともしない。


「勝った」アモーレの中でなんども反芻しては噛み締める。


 フユは何もせず唯ドームに手をついていた。


 アモーレは都市の中心。『黄金旗』の塔に着地して空を見上げる。


 目を疑った。彼女は何度も何度瞬きをしても、それが事実であった。


「割れ、割れて――。」


 フユは握力で『六面球門』を破壊した。


 いとも容易く、赤子の手を捻るかの如く、「力」だけで解決した。


 それは正しく「魔王」……。


 アモーレは息ができなくなった。


 一瞬、フユは彼女の首を片手で締めては呟いた。


「野菜、食えよ。」


 アモーレはなんとか爪をたてて掴まれた腕に引っ掛ける。


 だがそれも虚しくフユの力は増えてくばかり。


「野菜食えよ。野菜食ぇや死んでまった()()()()の事も分かろうて。」


 訛った声も、脅迫の声も、アモーレには死前の呪いでしかない。


「やめ、て。くだ、……。」


「野菜、食えよ。」


 捻れ、うねる様に建てられた、高く高く続く塔の上。


 フユはその手でアモーレを討ち取った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ