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ガチ殺しとは

 あれから。魔王をフユが殺した(事故)あの日から三ヶ月が経った。


 魔王が死んだという情報は瞬く間に世界中に広がり、人々は歓喜と安心を感じていた。


 が、魔王が死んだことで、魔物たちは行き場を失い、さらに人々と対立した。


 また、その悪の魔物たちの中でもずば抜けて魔王を崇拝していた者たちは、街を支配したり、村を襲い、自らたちを「真柱(アニマ)」と名乗り魔王復活を企てていた。


 そんな中でもフユが住む小さな村、「バーマ村」付近では真柱の一人、「アモーレ卿」が村襲撃を行っていた――。


 *


 「フユ、この肥料はどこの倉庫に入れればいい?」


 雲がところどころ顔を出している空が包む。


「あー、それはブリューネ草の肥料だから、第五倉庫に入れといてよ。」ありがとね。と付け足したフユはアーベルトと畑作業をしていた。


 あの魔王殺害(事故)事件からフユは都市や王都などから身を潜めている。


 それはフユの殺した魔王が、討伐隊ではなくただの農家に殺されたと知られれば瞬く間に有名になり、今の平穏がなくなるからだ。


「フユ・レガース」は転生者だ。元々は日本の高校生だったが、突然癌にかかりポックリ逝ってしまった。


 そうして新たに生まれ、辿り着いたのが、ここ「ルナテラ」という国だ。


 この世界では魔力や魔法は当たり前。最近になって魔王なんてものも出てきて、まさしく異世界転生したフユが無双するいい機会であったのに。彼は生前より願っていた平穏を選んだ。


『特別なスキル』とか『一見弱そうなのに強い』とか正直どうだってよかったのだ。


 その結果。農家となり、農村でゆったりスローライフを送っていた、というのに。


 今、魔王殺しの称号が認められれば、平穏は戻ってこないと思ったほうがいいだろう。


 だからこそ、フユは身を隠して、あわよくばアーベルトの手柄に仕立て上げようとしているのだが。


 アーベルトもアーベルトで頑固な男だ。「フユが倒したんだから、僕の手柄にはできない。」と一点張り。


 こうして最早魔王の威厳など微塵もない押し付け合いが始まり、3ヶ月が経ってしまった。


 あの後、倒れていたアーベルトの味方達を連れて村へ戻ってきたのだが、どうやら討伐隊全員体がボロボロらしく、この村で休息をとっている。


 ちなみに一番ボロボロだったアーベルトは2日で全回復した。流石は勇者の力を受け継いでいるだけある。


「フユ。そういえばあの剣ってまだあるかい?」


 水を汲んでいたフユにアーベルトは質問する。


「あの剣?」


「ああ。彼女の使っていた剣だよ。仲間に見せたいと思ってね。」


「あれか。あれなら第二倉庫奥の林にあると思うよ。」


「ありがとう。」そう言ってアーベルトはフユの元を早足で去っていった。


 フユはふと、彼女の顔を思い出す。太陽のように笑う顔と少しはみ出した八重歯。


 美しくも気の強い紅の色味に何度心揺らされただろうか。


 今でも思い出しては少しばかりのノスタルジーに浸るのは彼が、前世でもそういう人間だったからだろう。


 一度置いた水の入った桶をもう一度持って畑に向かおうと歩き出すと、声が聞こえた。


「ユー!ユー!」これはフユを呼ぶ声だ。遠くからフユの方に向かってきている白いショートヘアーにポンチョを着た「白創猫」の少女が放った言葉らしい。


「どうした、ヴァル。」その「白創猫(ビャッコ)」はフユから「ヴァル」と呼ばれており、ヴァルは呼ばれると嬉しそうに尻尾を立ててフユの元まで走ってきた。


「あのね、あのね、ユー。あのね。」


「落ち着きな、ほら。」そう言ってヴァルの頭に手を乗せるフユ。まんざらでもないのかフユも喜ぶヴァルを見て少し口元が緩んでいる。


「あのね、ユー。まずいんだよ。隣の村がね、燃えてるんだよ。」そう言ったヴァルは焦ったような、悲しそうな表情をしていた。


「燃えてる?」


「うん、うん。悪い人が燃やしちゃったって言ってたんだよ。」


 悪い人。おそらく最近よくない噂を聞く付近の都市、「アイダモ」の真柱の仕業だろう。とフユは心の中でため息をついた。


 どうしたものか。この村まで来てしまうと対処しなければならないし。


 そうフユが悩んでいると、ヴァルは不安そうにフユの目を見つめていた。


「ユー……?」


「ん?ああ、ごめんごめん、大丈夫だよ。何も心配することないさ。なんてったってうちには今勇者サマが来てるしね。」そう言って仲間と林の方へ歩いていくアーベルトをちらりと見る。


「でもユーの方が強い!」なぜか怒ったようにヴァルは言った。


「そんなことはないでしょ。」と笑ってみるフユ。フユはふと思ってヴァルに尋ねる。


「燃えたって誰の家なの?」


「畑だって言ってたんだよ。多分家は燃えてないんだよ。」


「――は?」さっきまで温厚とは思えない程の殺気。


 一瞬魔王、否それ以上の恐怖が空気に流れる。


 緑の魔力に加えて、魔の力ではないフユ特有のスキル「気」があふれ出す。


 ここで注釈。「気」とは、フユ専用スキルの一つであり、唯一生まれながらにして持っていたスキルだ。


 大気中に広がる魔力、「マナ」を利用するのが「魔法」。


 対してフユの使う「気」は自らに流れるエネルギーを体内に回し続けて体外に一気に放出し、体力や筋力を限界まで引き延ばす、至って普通の異世界スキルって感じである。


 そうして魔力と気を同時に使うと、どこかの伝説のスーパー宇宙人に見えなくもないがいったん置いておこう。


 ちなみに別に髪の色は変わったりしない。


 場面を戻すが、とうにフユはどこかに行ってしまったようで、ヴァルだけが恐怖で震えたまま立ちすくんでいた。


 異常な魔力に気づいたアーベルトはヴァルの所へ急ぐ。


「行っちゃったんだよ。」


 *


 フユは激怒していた。かつてないほどの理不尽と冒涜に苛まれて。


 フユは基本的に怒ることがない。それは「怒り」というエネルギー自体が無駄であり、それ以上に争いの火種になりかねない厄介な感情だから。


 悪戯をされても、悪口を言われても、たとえ顔面パンチを喰らったとしても「面倒だな」としか思わないのである。


 しかし、特例がある!それこそ、農作物に、生けとし生きる植物に、「死」を与えられた時である!


 ――突如小さな村に、魔王の魔力がアリレベルに見えるほど巨大な魔力が降り立った。


 その気の周りにはアモーレの配下が何十人、何百人と並ぶ。だが誰一人としてマッハより早く飛来したフユに感づくことはできない。


 何人かいる「真柱」の中でも上位クラス。旧8柱内でも指折りの実力であるアモーレすらもフユが到着した瞬間に気づくレベルで一瞬のことであった。


 そんなアモーレは激怒するフユに不敵な笑みを浮かべる。


 フユはそんなアモーレに一言。


 「ガチ殺す……!」

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