表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

魔王さん、一撃瞬殺

 ザクッという気持ちの良い音が響く。

 

 男は慣れた手つきで大きなクワを上げて、振り下ろすを繰り返す。

 

 そのたびに良い音とクワの重さが体に響いて気持ちが良い。


 ああ、気持ちいい。そう幸せそうに男は心の中で呟く。

 

 こんな晴れやかな日には、植物たちも喜んでいるだろう。太陽を見ながら思った。


 ――あいつもこんな晴れた日が好きだったかな。汗が頬を伝っていくのを男は感じた。


 ~~一方その頃、()()()~~。


「……フフッ、フハハハハ!」ドス黒い声で放たれた笑い声で周りの瓦礫が揺れる。周りに流れるわずかな魔力さえも、並みの冒険者ではあてられてしまうほどの濃さだ。


 ここで四人の者たちは魔王の前で倒れていた。相対した魔王は余裕気に王座に座り、足を組んでいた。


 巨大な口から見える薄汚い歯は、まるで猛獣のようだ。


「あの男の力を受け継いだと聞いていたが……話にもならんな。」


 また不敵な笑みを浮かべると、空は呼応するように雷鳴を轟かせた――。


 ~~また場面は戻り、陽が降り注ぐ畑の元~~


 おーい、と男を呼び止める声が聞こえる。


 「レガース君。この土見てほしいんだけど、いいかな?」


 男は持っていたクワを置いて、タオルで汗を拭きつつ差し出された土を見る。


 その土はボロボロになっており、空気に触れるだけで風化してしまっていた。


 「あー、『魔層土』ですか。もう変えなきゃいけないんですかね。」


 「そうかもしれないね。これで育ててた植物も魔のもので、もらえたのも奇跡みたいなものだっただろう?まったく魔と関係のない僕らじゃわからなくてさ。」


 「それで、なぜ俺に?」


 「そりゃ、レガース君が一番植物に詳しいし。」


 「なるほど。確かに詳しいですが、これはさすがに代替のしようのない土ですし、もう魔の植物は育てられないかもですね。」


 「それは困るなあ。」二人して頭を悩ませていると、レガース。「フユ・レガース」は思いついたように、「あ」といった。


 「俺、魔層土取りに行ってきますよ。」軽くそう言うフユに、農家の男は「へ?」と素っ頓狂な声を上げた。


 「俺ならパっと『魔窟』いけますし、ね?」


 「いや、でも今は魔王が戦ってるかもしれないし、噂によればちょうど討伐隊が魔王城に着いたとか……。」


 「大丈夫ですって。魔王城に近い場所では降りないようにすれば。」


 「でもなあ。」と悩む男を置いて、フユは「んじゃ、行ってきます。」と足に力を入れ始めていた――。


 ~~また場面は戻って魔王城~~


 雷鳴だけが響く中、ふと倒れていた者たちの中で一人、立ち上がった者がいた。


 その者は巨大な剣をなんとか拾い、歯を食いしばって魔王に切っ先を向ける。


 「――僕の名は、『アーベルト・バルドル』!」魔王は何も言わずアーベルトを見た。


 その目は希望を背負った黄金の目であった。


「……貴様を、倒すものだ!」決死の覚悟でそう言い放ったが、魔王は何も言わない。


 赤子を。いや理解できない昆虫を見るかのようにアーベルトを蔑んでいた。


 対してアーベルトは首から下げたペンダントを握って呟いた。


 「二人とも、見ててくれ。僕が必ず――。」


 アーベルトの純粋な青色の魔力が黒く染まった空に一閃、光を放つ。


 剣は魔力を吸収して周りの黒い魔力を消し去っていく。


 「ほう。なかなかの魔力。『8柱』上位クラスか?」その姿を見て、初めて少し体を動かした魔王は嘲笑うように言う。


 「だが、弱いな。ゴミ同然だ。」


 アーベルトはそんな言葉に負けじと魔力を込める。そして周辺の魔力が青く染まりきった時。アーベルトの剣は振りかざされる。


 「喰らえ!僕の、全力を!」


 悲痛ともいえる雄たけびが上がり、魔王が笑う。


 「来い、できそこない゙」その時、魔王の左頬付近に何かが突っ込んできた。


 魔王の面はぐにゃりと歪み、目が飛び出しそうなほど衝撃が伝わる。


「い゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」


 強烈な爆発音と魔王の姿が王座から消え去ったのはほぼ同時で、気づけば魔王は城の左の方に倒れていた。


 ピクリとも動かず、白目を剥いた魔王の頬の上には人影があった。


 「……あっちゃぁ……。死んでるかな、コレ。着地地点ミスったぁ…。」


 つんつんと頬を突いて焦ったように言う。


 アーベルトは目を疑った。


 「――フユ、か?」


 その声に体を震わせ、首をゆっくりとアーベルトの方へ向けるフユ。


 「やっぱり、フユ……。君は最強だな。」泣きそうな声でそう言ったアーベルトとは違ってフユは目を泳がせたまま、口を開いた。


 「――俺は、殺ってない。殺ったのはお前だ。」


 ――――かくして、魔王は一撃で通りすがりの農家にブチ殺され、世界に平穏が訪れた――――。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ