空泳倶楽部へおいでませ!
天使の間で雲の中を泳ぐ競技、『雲泳』が今流行している。
『雲』という捕らえにくい半固体の物質の間を泳いでいくなんて、難易度がかなり高い。
スポーツが得意な天使はスイスイ泳げるのだが、真逆のインドア派の天使の場合は雲のぬかるみに足や羽根をとられて進めない。
「小さいうちに雲泳を習っておけば泳げるぞ!」
「うちの父さん、雲泳はいつか必要になるから習っておけ……って言ってやらされたよ」
「君は、習わなかったの?」
僕は答えに困った。
回りの子は皆、雲泳を習っていた。
(その時は家計が厳しくて、習い事なんか無理だったんだよ)
叫びを胸の空間に落とした僕は、雲泳が出来るのが当たり前だと思う皆が恨めしく思えた。
「僕は小さい頃、空泳に夢中だったんだ。
泳ぎやすくて、自由になれるから」
言いながら僕は空を泳いで見せた。
皆は呆然と僕を見つめる。
(馬鹿にしてるな。
貧乏だから習い事なんて……)
「カッコいい!
フォームが綺麗だ!」
(え?)
てっきり阻害されるかと思っていた僕だけど、皆の僕を見る目が本気の憧れに近い視線を向けていた。
「長距離はいけるの?」
「もっと泳いで見せて!」
「凄い特技をもってたんだな!」
僕はちょっと戸惑いながら、空泳の手本を皆に見せた。
十分ぐらい泳いでいたら、声をかけてきた人がいた。
「そこの少年、良いフォームだな!
良ければウチが経営する『ほのぼの空泳倶楽部』に
入らないか?」
入会の話は親を通してあっという間に決まり、僕は入会金を免除で『ほのぼの雲泳倶楽部』に入会した。
二年後彼は空泳の大会でグランプリを獲得し、莫大な賞金で逆転天使人生をおくる。